恋とキスは背伸びして
「これはこれは。お越しくださってありがとうございます、成瀬さん。富樫さんと結城さんも」
「お忙しいところをお邪魔して申し訳ありません、倉本さん。とても賑わってますね」
「はい、お陰様で。ケーキ作りもすぐに満席、プラネタリウムの貸し出しも、あっという間に全て出払いました。追加で購入することになりましたよ」
「そうでしたか。我々も嬉しい限りです」

少しご挨拶に伺うと連絡すると、倉本はロビーで三人を出迎えてくれた。

平日にもかかわらず、ホテルは多くのカップルで賑わっている。

レストランも客室も、今夜は全て予約で埋まっているらしかった。

「倉本さん、よろしければこちらをどうぞ。皆様で召し上がってください」

美怜が用意しておいた菓子折りを手渡すと、倉本は恐縮して受け取る。

「お気遣いいただき、ありがとうございます。いつもお世話になっている上にこんなことまで。お若いのに素晴らしい社員さんがいらっしゃって、御社は安泰ですね、成瀬さん」
「嬉しいお言葉をありがとうございます、倉本さん。今日はひと際お忙しいと思いますので、どうかもうお構いなく。少し館内の様子を見させていただいてから失礼しますので」
「分かりました。次回はゆっくりお食事にご招待させてくださいね」

にこやかにそう言って、倉本は持ち場に戻って行った。

「さてと。どこから見て回る?」

成瀬が美怜を振り返る。

「イベント会場から見てもよろしいでしょうか?そのあと、ロビーとガーデンテラスのフォトスポットを」
「ああ、分かった」

三人はまず初めにケーキ作りのイベント会場に向かった。

「盛り上がってますね。皆さん楽しそう。あ!記念撮影のパネルに列ができてる」

美怜の言葉に卓と成瀬も目を向けると、でき上がったケーキを前に笑顔で頬を寄せ合うカップルを、ホテルのスタッフが撮影していた。

手にはあの『LOVE』と『SWEET』のハートパネルを持っている。

「なんかちょっと、嬉しい反面照れちゃいますね」
「結城さんが用意したのに?」
「いやだって、もっと軽いノリでおふざけ半分で使っていただけるかなと思ってましたが、案外皆さん普通に使っていらっしゃって」
「結城さんは、彼氏とはああいうことしないタイプ?」
「はい、恐らく。本部長は?」
「おじさんに聞かないでよ」
「似合ってましたけどね」

すると、思い出したとばかりに成瀬はまた美怜に詰め寄る。

「ちゃんと消してくれた?あの写真」
「はい、多分」
「多分ってなんだよ!おい、富樫。お前からも…」

卓を振り返った成瀬は、言葉を止めて真顔になる。

「富樫?どうかしたか?」
「え?いえ、何も」
「…そうか」

そう言ったあと成瀬は、何かを考えるようにうつむいていた。
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