恋とキスは背伸びして
アフターヌーンティー
ルミエール ホテルのファミリールームのリニューアルが始まった。

壁紙を替えるのは難しいとのことで、その分カーテンや壁の装飾にこだわり、テーマごとにいくつかのパターンに分けて家具をセレクトした。

水色のカーテンで空をイメージした部屋は、雲や太陽、虹の飾りつけをする。

夜になり部屋の電気を消すと、たくさんの星が輝くように、蓄光タイプのウォールステッカーを天井や壁に貼った。

子ども用の二段ベッドは、枕やシーツ、布団カバーも全て空の模様。

(部屋に入った瞬間、わあって喜んでもらえるといいな)

子ども達の笑顔を想像して、美怜はふふっと微笑む。

他にも、冒険や海賊のイメージの部屋、プリンセスのお城をイメージした部屋、海の生き物や動物をイメージした部屋など、可愛い家具や雑貨で作り上げていく作業は楽しく、美怜は充実した毎日を送っていた。

「本部長、作業の進捗の一覧です」

卓が差し出す書類を、ありがとうと受け取りながら、成瀬はさり気なく様子をうかがう。

バレンタインの日以来、卓はますます表情が硬くなった。

更に美怜がいつもより微妙に卓と距離を置いているようにも感じる。

(上手くいかなかったのかな。結城さん、富樫の告白を断ったのかも)

それならこの作業もやり辛いだろうと、成瀬はなるべく現場に三人で行く日を減らそうとしていた。

「本部長。このスケジュールですと、確認作業が不十分になってしまうかと。私だけはもう少し現場に足を運んで、立ち会ってもよろしいでしょうか?」

美怜がシフト表を見ながら尋ねると、成瀬は少し考え込む。

「それなら私も立ち会うよ。責任者は私なんだから。それに会社からこのホテルへは、電車で行くと乗り換えも大変だし」
「ですが、本部長はお忙しいですよね?」
「いや。スケジュールを調整すれば問題ない」

富樫は…?と振り返って、その暗い表情に成瀬は言葉を飲み込む。

(やはりこの現場は辛いのだろう)

そう思い、成瀬は美怜だけを連れて現場入りする日を増やした。
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