恋とキスは背伸びして
「本館はアネックス館とはガラッと変わって落ち着いた雰囲気ですね。それにとっても静か。なんだか優雅な気分になります」
「そうだな。老舗ホテルの良さが表れている。昔からの馴染みのお客様に愛されているんだろうな」

ラウンジは空いており、アフターヌーンティーもお二人分から承れますとスタッフに勧められ、それをオーダーすることにした。

グラスの水をひと口飲んでから、美怜はもう一度ロビーに目をやる。

「調度品もアンティークで素敵ですね。本館には、うちからは客室のベッドしかご提供してないんですよね?」
「ああ、今のところはな。だがアネックス館の全面リニューアルに関わらせてもらったから、これを機に本館の方も何かって話が出てるんだ。担当者は営業部の、ほら、富樫と同じ関東法人…」

そこまで言って、成瀬は口をつぐむ。

ん?と美怜が不思議そうにするが、「いや、何でもない」と濁した。
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