恋とキスは背伸びして
崩れた関係
三月十四日。
ルミエール ホテルのアネックス館、全面リニューアルが遂に完了した。

「成瀬さん、富樫さん、結城さんも。長い間本当にありがとうございました」

最後の確認を終えると、倉本達が深々と三人に頭を下げる。

「こちらこそお世話になりました。リニューアルを弊社にご用命くださって、大変光栄でした。本当にありがとうございます。今後も何かありましたらいつでもご連絡ください。アフターフォローもしっかりとやらせていただきます」
「心強いです、ありがとうございます。季節のイベントなどの装飾も、引き続きよろしくお願いいたします」
「はい。末永くおつき合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします」

挨拶を済ませて駐車場に向かいながら、三人はようやく肩の力を抜く。

「はあ、やっと終わったな」
「はい。本部長、お疲れ様でした」
「二人とも、本当にありがとう。おかげで良い仕事ができたよ」

この時ばかりは卓もホッとしたように笑顔を見せた。

「そうだ。結城さん、これ」

思い出したように、成瀬はジャケットの内ポケットから小さな包みを取り出す。

「気持ちばかりなんだけど、義理チョコのお返しに」
「あ、そう言えば今日はホワイトデーでしたね。ありがとうございます」
「君がくれたチョコレートに比べたら、なんてことはないもので申し訳ない」
「いいえ、お気持ちだけでも嬉しいです」

成瀬はわざと卓の前で、明らかにどこにでもありそうなホワイトデーのお菓子を美怜に渡した。

あくまで義理を果たしただけで、他意はない、というように。

ちらりと目を向けると、卓はじっと美怜の手元を見ている。

(このあと富樫も彼女に何か渡すのかな?)

そう思い、今日は解散することにした。

(本当は二人を盛大に労って、美味しいお店に連れて行きたかったが。まあ、日を改めるか)

成瀬はまたもや社に戻ると嘘をつき、二人を駅前で降ろして去って行った。
< 122 / 243 >

この作品をシェア

pagetop