恋とキスは背伸びして
「お疲れ様です」

三十分程して店に現れた卓を、佳代と美沙は明るく迎える。

「お疲れ様ー!今夜もお姉さん達がおごっちゃうから、どんどん食べなね」
「ありがとうございます」

ビールで乾杯すると、二人は卓の前に料理を次々と並べた。

「最近ちゃんと食べてるの?ほら、これも食べて。栄養つけないとね」
「先輩、お姉さん通り越しておふくろさんですね」

なにをー?!と素に戻る佳代を、美沙が咎める。

「佳代、今夜のところは、ね?」
「あ、そうよね」

シュンとおとなしくなる佳代に、卓は苦笑いした。

「さすがは佳代先輩と美沙先輩。もうお見通しなんですね」
「え、いや。何も知らないよ?美怜からも何も聞いてないし」
「ってことは、やっぱり分かってるんですね。俺と美怜の最近の様子」
「ううん、ほんとに何も知らないって。美怜は自分から卓くんのプライベートを話すような子じゃないし、卓くんだって、私達には言いにくいでしょ?」

か、佳代!と、隣で美沙が袖を引っ張る。

「しゃべり過ぎだってば」
「え?何もしゃべってないよ?私からは言えないじゃない、あんなこと」

すると卓が、ふっと笑みをもらす。

「佳代先輩、隠し事できないタイプでしょ?」
「できるわよ!しれっと涼しい顔でごまかすの、得意だし」
「じゃあ知らないんですね?俺が美怜に失恋したこと」
「ししし知らない」

あはは!と、卓は思わず声を上げて笑った。

「佳代先輩、分かりやす過ぎ!」
「いや、でも、あの。ほんとに知らないというか。そうなのかなって思ってただけで。ねえ?美沙」
「うん。でもだいたいの見当はついてたの。卓くん、もしかして告白する前に美怜に勘違いされた?他に彼女ができたって」

卓は小さく息を吐くと頷く。

「どうして否定しなかったの?」

美沙の言葉に、卓は悲しげに苦笑いした。

「ほんと、どうしてなんでしょうね?その場ですぐに、彼女なんていない。俺はお前が好きだって言えたらどんなに良かったか…。俺って軽い性格なのに、いざとなったら腰抜けですね。それくらい、あいつのことが好きで…」
「卓くん…」

言葉を詰まらせた卓に、佳代と美沙も思わず涙ぐむ。
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