恋とキスは背伸びして
「卓!こんなところにいたの?」

しばらくすると美怜の声がして、卓は振り返る。

綺麗な花が咲き乱れるガーデンを軽やかに駆け抜けて来る美怜は、やはり何度見ても美しい。

思わず目を細めると、美怜は卓のすぐ前までやって来て微笑んだ。

「あのね、ルミエールの総支配人の方が、私達にご挨拶したいって。なんでも娘さんが総支配人にそう言ったみたいよ」
「総支配人の娘さん?」
「そう。さっき私達、総支配人にマイクで簡単に紹介されたじゃない?それで娘さんが、直接挨拶したいって」
「ふうん。なんだろな?」
「分かんないけど、とにかく行こう」
「ああ」

二人で会場に戻ると、先程ステージ上にいた総支配人が、成瀬と和やかに話をしている。

「おお、お揃いですかな?」

総支配人が美怜と卓に笑顔を向けた。

「はい。弊社の営業部の富樫と広報部の結城です」

成瀬に紹介されて、卓と美怜は総支配人に名刺を差し出し挨拶した。

「アネックス館のリニューアルでは大変お世話になりました。ルミエール ホテル総支配人の高畑と、娘の友香(ともか)です」
「初めまして、高畑 友香と申します」

総支配人の後ろに控えていた女性が、一歩前に出てお辞儀をする。

「初めまして、富樫と申します」

同じように頭を下げた卓は、顔を上げた途端驚いて目を丸くした。

「君、さっきの?」
「ふふ、はい。先程はありがとうございました。メゾンテールの富樫さん」

すると総支配人が、ん?と首をひねる。

「友香、富樫さんと知り合いだったのか?」
「先程、困っていたところを助けてくださったのです。とてもお優しい方ですわ、お父様」
「へえ、友香が男性に対してそんなことを言うなんて珍しい。富樫さん、今後とも娘をよろしくお願いします」

はっ?!は、はい!と、卓は直立不動になる。

それでは、また、と総支配人が別のゲストのところへ行き、友香もにこやかにお辞儀をしてから父のあとを追った。
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