恋とキスは背伸びして
「卓ったら、いつの間にご令嬢とお知り合いになったの?」

去って行く友香を目で追ってから、美怜が卓に詰め寄る。

「ほんとだよ、富樫。まさか彼女にナンパされたのか?」

成瀬にも真顔で聞かれ、卓は「違いますよ!」と慌てて否定した。

「でもあのご令嬢、富樫のことニコニコしながら見てたぞ?」
「そうですよね。しかも総支配人から、娘をよろしくお願いします、なんて。卓、ひょっとしてお見合いしたの?」
「するかよ!」

卓がきっぱりそう言っても、成瀬と美怜はまだ納得いかないとばかりに考え込む。

「すごいな、富樫。こんな短時間であんなご令嬢に言い寄られるなんて」
「本当ですよね。卓ってモテるんだね。確かに今日の卓は、フォーマルなスーツが似合ってるし髪型も整ってて、いつもと違ってかっこいいもんね」
「美怜…。いつもと違って、は余計だ」
「あ、ごめんごめん。あはは!」

やれやれと卓はため息をついた。

見た目は大人っぽくても、中身はやっぱり美怜のままだ、と思いながら。
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