恋とキスは背伸びして
「卓!」
待ち合わせしたホテルのロビーで、美怜は卓の姿を見つけてタタッと近づいた。
「ごめん、お待たせ」
「いや、俺も今着いたとこ」
「そう?良かった」
二人並んでエレベーターホールに向かい、フロアの案内表示を確認する。
「えーっと、今日は点心のお店だよな?二十三階か」
「うん!種類もいっぱいあるし、美味しいんだって。佳代先輩から教えてもらったの。楽しみにしてたんだー。ごちそうになります、卓様」
「はいはい。お安いご用ですよ」
異国情緒溢れるレストランの入口を入ると、店内は比較的空いていた。
「窓際のお席にご案内いたします」
チャイナドレスのスタッフに笑顔で促され、二人は綺麗な夜景が見下ろせる大きな円卓に腰を落ち着けた。
点心のコースをオーダーして、まずは紹興酒で乾杯する。
「かんぱーい!今日もお疲れ様」
「お疲れ。昨日はありがとな、美怜」
「ううん。どうたった?その後の契約は」
内容も双方納得いくものに決まったのかと、美怜は気がかりだった。
「ああ、喜んでもらえたよ。あのコンベンションセンターは、オープン前から既に一年先まで予約がある程度入ってるんだ。早速その主催者と打ち合わせのスケジュールを組むことになった。うちのインテリアコーディネーター達に引き継ぐけど、最初は俺も立ち会って様子を見るよ」
そうなのね、と言って美怜はしばし考え込む。
「どうかしたか?」
「うん。その打ち合わせ、最初の一回目は私も同席していい?」
「え?それは構わないけど。なんで?」
「やっぱり気になって。倉庫をご案内した時、私、タブレットで色んなバージョンのコーディネートをお見せしたでしょ?先方にそのイメージが残ってるかもしれないし、それをうちのコーディネーターさんは把握していない訳だから」
なるほど、それもそうか、と言って卓は腕を組む。
「そうしてくれると俺も助かるけど、そっちは大丈夫なのか?」
「入江課長に相談してみるね。多分いいよって言ってくれると思う」
すると頭上から「呼んだ?」と声がして、二人は驚いて振り仰ぐ。
「課長?!どうしてここに?」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「私も食事しに来たんだよ。相田さんがこのお店の点心が美味しいって言ってたからね。それより、私の噂話?聞いちゃいけないやつだった?」
「いえ、まさかそんな。富樫さんが昨日契約を結んだコンベンションセンターの件で、最初の打ち合わせに私も同席させて欲しいって話してたんです。倉庫にご案内したのは私ですし、先方のイメージも、ある程度昨日私が話した内容かもしれないので」
「ああ、確かにそれはそうだね」
「行ってもよろしいでしょうか?それを課長に確認したくて」
「うん、いいよ。行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
課長は美怜に頷くと、卓にも声をかける。
「富樫くん、契約おめでとう。なかなかがんばってるね」
「いえ、ミュージアムの皆様のおかげです。自分一人では、まだ何もできません」
「いや。他の営業マンはプライドが許さないのか、頑なに自分一人で契約を取ろうとするが、君は先方の希望に合わせて柔軟に対応する。ミュージアムにお連れするのが最適だと判断すれば、私達に頼んでくる。そうやって素直に仕事に向き合えるのは、君の良いところだよ」
「ありがたいお言葉、恐れ入ります。入江課長」
「またいつでも頼ってくれ。おっと、立ち話し過ぎたな。それじゃあ、二人でごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」
スタッフに先導されて歩き始めた課長を見送っていると、すぐ後ろから「お疲れ様」と低い声がした。
え?と振り向いた美怜は、目の前に立ちはだかる背の高い男性の顔を見て驚いた。
「隼斗さん!課長とご一緒だったんですね」
「ああ、偶然だな。それじゃあ」
「はい、失礼いたします」
お辞儀して見送っていると、卓が慌てふためいたように美怜に顔を寄せた。
待ち合わせしたホテルのロビーで、美怜は卓の姿を見つけてタタッと近づいた。
「ごめん、お待たせ」
「いや、俺も今着いたとこ」
「そう?良かった」
二人並んでエレベーターホールに向かい、フロアの案内表示を確認する。
「えーっと、今日は点心のお店だよな?二十三階か」
「うん!種類もいっぱいあるし、美味しいんだって。佳代先輩から教えてもらったの。楽しみにしてたんだー。ごちそうになります、卓様」
「はいはい。お安いご用ですよ」
異国情緒溢れるレストランの入口を入ると、店内は比較的空いていた。
「窓際のお席にご案内いたします」
チャイナドレスのスタッフに笑顔で促され、二人は綺麗な夜景が見下ろせる大きな円卓に腰を落ち着けた。
点心のコースをオーダーして、まずは紹興酒で乾杯する。
「かんぱーい!今日もお疲れ様」
「お疲れ。昨日はありがとな、美怜」
「ううん。どうたった?その後の契約は」
内容も双方納得いくものに決まったのかと、美怜は気がかりだった。
「ああ、喜んでもらえたよ。あのコンベンションセンターは、オープン前から既に一年先まで予約がある程度入ってるんだ。早速その主催者と打ち合わせのスケジュールを組むことになった。うちのインテリアコーディネーター達に引き継ぐけど、最初は俺も立ち会って様子を見るよ」
そうなのね、と言って美怜はしばし考え込む。
「どうかしたか?」
「うん。その打ち合わせ、最初の一回目は私も同席していい?」
「え?それは構わないけど。なんで?」
「やっぱり気になって。倉庫をご案内した時、私、タブレットで色んなバージョンのコーディネートをお見せしたでしょ?先方にそのイメージが残ってるかもしれないし、それをうちのコーディネーターさんは把握していない訳だから」
なるほど、それもそうか、と言って卓は腕を組む。
「そうしてくれると俺も助かるけど、そっちは大丈夫なのか?」
「入江課長に相談してみるね。多分いいよって言ってくれると思う」
すると頭上から「呼んだ?」と声がして、二人は驚いて振り仰ぐ。
「課長?!どうしてここに?」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「私も食事しに来たんだよ。相田さんがこのお店の点心が美味しいって言ってたからね。それより、私の噂話?聞いちゃいけないやつだった?」
「いえ、まさかそんな。富樫さんが昨日契約を結んだコンベンションセンターの件で、最初の打ち合わせに私も同席させて欲しいって話してたんです。倉庫にご案内したのは私ですし、先方のイメージも、ある程度昨日私が話した内容かもしれないので」
「ああ、確かにそれはそうだね」
「行ってもよろしいでしょうか?それを課長に確認したくて」
「うん、いいよ。行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
課長は美怜に頷くと、卓にも声をかける。
「富樫くん、契約おめでとう。なかなかがんばってるね」
「いえ、ミュージアムの皆様のおかげです。自分一人では、まだ何もできません」
「いや。他の営業マンはプライドが許さないのか、頑なに自分一人で契約を取ろうとするが、君は先方の希望に合わせて柔軟に対応する。ミュージアムにお連れするのが最適だと判断すれば、私達に頼んでくる。そうやって素直に仕事に向き合えるのは、君の良いところだよ」
「ありがたいお言葉、恐れ入ります。入江課長」
「またいつでも頼ってくれ。おっと、立ち話し過ぎたな。それじゃあ、二人でごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」
スタッフに先導されて歩き始めた課長を見送っていると、すぐ後ろから「お疲れ様」と低い声がした。
え?と振り向いた美怜は、目の前に立ちはだかる背の高い男性の顔を見て驚いた。
「隼斗さん!課長とご一緒だったんですね」
「ああ、偶然だな。それじゃあ」
「はい、失礼いたします」
お辞儀して見送っていると、卓が慌てふためいたように美怜に顔を寄せた。