恋とキスは背伸びして
「じゃあ、行こうか。マンションまで送るよ」
「はい、ありがとうございます」
ロビーで卓と友香と別れたあと、成瀬と美怜は駐車場に向かった。
「結構ワイン飲んでたけど、大丈夫?」
「大丈夫です。お料理が美味しくて、ついつい飲み過ぎちゃいました。明日が土曜日で良かったです」
「ははは!昼までゆっくり休んで」
「さすがにそんなに寝ませんよ」
二人で雑談しながら、美怜のマンションまでドライブする。
「それにしても、総支配人から意外なお仕事のお話を受けましたね」
「そうだな。本館については、富樫の先輩が先方とやり取りしていたが、これからは友香さんから総支配人に話がいく方が早いだろうな。それに富樫なら、総支配人を納得させられるアイデアをすぐに提案できそうだし」
「そうなると、富樫さんの先輩の立場はどうなりますか?あまり快く思わないのではないかと心配です」
「まあ、いい気持ちはしないだろうな。その辺りは私が上手くやっておく。富樫とは別の大きな案件を割り振ったりね。あくまで富樫は友香さんのお手伝いをしているまでだってことにしておくよ」
「はい」
美怜は成瀬の言葉に安心して頷いた。
(やっぱり本部長は頼りになるな)
窓から見える外の景色を眺めながら、ゆったりと心地良い時間に身を任せる。
そう言えば、今車に二人切りだと気づいたが、心地良さは変わらない。
沈黙が続いても気まずさは感じなかった。
やがて美怜のマンションに着き、車から降りた成瀬は助手席のドアを開けて美怜に手を差し伸べた。
「ありがとうございます」
成瀬の手を借りて車を降りると、あれ?という呟きと共に成瀬がじっと、手に取ったままの美怜の左手を見つめる。
「どうかしましたか?」
「うん。このバラ…」
「ああ!本部長からいただいたチャームです」
「だよね。え?前はペンダントだった気がしたけど」
「はい。今日はブレスレットにしてみました」
ええ?!と成瀬は驚いて美怜の顔を見る。
「チャームからペンダントにして、そのあとブレスレットに?君、アクセサリー職人なの?」
「あはは!なんですか、それ」
「だってじゃあ、なんでこう次々と?」
「簡単ですよ。チャームのトップについているピンにバチカンをつけて、それを色んなアクセサリーにつけ替えただけです」
「は?なんだって?バチカン?」
「ふふ、これです。この金具」
そう言って美怜が左手のブレスレットの真ん中を指差すと、成瀬はその手を引き寄せてまじまじと見入った。
手首を包み込む大きな手の温かさと、じっと顔を寄せられる距離感に、次第に美怜はドキドキし始める。
「すごいな。どうやったらこんなことが?売り物にしか見えない。それにしても君の手首、真っ白で細くて綺麗だね」
「は?あの、いえ」
成瀬は親指を美怜の手首に当てると、優しく何度も滑らせる。
「うひゃっ、本部長!スリスリしないでください!くすぐったくて」
「あっ、ごめん。なんかすべすべして気持ち良くて」
「赤ちゃんのほっぺじゃないんですから」
美怜は慌てて手を引っ込めた。
成瀬は正面から美怜と向き合う。
「このバラのチャームをこんなに大切にしてくれてありがとう。なんか、俺がプレゼントされたみたいに嬉しいよ」
「いえ、こちらこそ。素敵なプレゼントをありがとうございました」
「気に入ってもらえて良かった」
「はい、私の大切な宝物です。本部長も、車のワイヤレスマウス、大切に使ってくださってありがとうございます」
「ああ、俺の大事なお気に入りだ」
「ふふっ、良かった」
二人で頬を緩めて見つめ合う。
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい。ありがとうございました」
両手を揃えてお辞儀をすると、美怜はくるりと向きを変えてエントランスに入っていく。
ふわっと揺れた薄紫色のワンピースが、今夜の可憐な美怜の雰囲気そのもので、成瀬の目に焼きついて残る。
エレベーターに乗り込む前にもう一度こちらを見て微笑む美怜を、成瀬は片手を挙げて優しく見守っていた。
「はい、ありがとうございます」
ロビーで卓と友香と別れたあと、成瀬と美怜は駐車場に向かった。
「結構ワイン飲んでたけど、大丈夫?」
「大丈夫です。お料理が美味しくて、ついつい飲み過ぎちゃいました。明日が土曜日で良かったです」
「ははは!昼までゆっくり休んで」
「さすがにそんなに寝ませんよ」
二人で雑談しながら、美怜のマンションまでドライブする。
「それにしても、総支配人から意外なお仕事のお話を受けましたね」
「そうだな。本館については、富樫の先輩が先方とやり取りしていたが、これからは友香さんから総支配人に話がいく方が早いだろうな。それに富樫なら、総支配人を納得させられるアイデアをすぐに提案できそうだし」
「そうなると、富樫さんの先輩の立場はどうなりますか?あまり快く思わないのではないかと心配です」
「まあ、いい気持ちはしないだろうな。その辺りは私が上手くやっておく。富樫とは別の大きな案件を割り振ったりね。あくまで富樫は友香さんのお手伝いをしているまでだってことにしておくよ」
「はい」
美怜は成瀬の言葉に安心して頷いた。
(やっぱり本部長は頼りになるな)
窓から見える外の景色を眺めながら、ゆったりと心地良い時間に身を任せる。
そう言えば、今車に二人切りだと気づいたが、心地良さは変わらない。
沈黙が続いても気まずさは感じなかった。
やがて美怜のマンションに着き、車から降りた成瀬は助手席のドアを開けて美怜に手を差し伸べた。
「ありがとうございます」
成瀬の手を借りて車を降りると、あれ?という呟きと共に成瀬がじっと、手に取ったままの美怜の左手を見つめる。
「どうかしましたか?」
「うん。このバラ…」
「ああ!本部長からいただいたチャームです」
「だよね。え?前はペンダントだった気がしたけど」
「はい。今日はブレスレットにしてみました」
ええ?!と成瀬は驚いて美怜の顔を見る。
「チャームからペンダントにして、そのあとブレスレットに?君、アクセサリー職人なの?」
「あはは!なんですか、それ」
「だってじゃあ、なんでこう次々と?」
「簡単ですよ。チャームのトップについているピンにバチカンをつけて、それを色んなアクセサリーにつけ替えただけです」
「は?なんだって?バチカン?」
「ふふ、これです。この金具」
そう言って美怜が左手のブレスレットの真ん中を指差すと、成瀬はその手を引き寄せてまじまじと見入った。
手首を包み込む大きな手の温かさと、じっと顔を寄せられる距離感に、次第に美怜はドキドキし始める。
「すごいな。どうやったらこんなことが?売り物にしか見えない。それにしても君の手首、真っ白で細くて綺麗だね」
「は?あの、いえ」
成瀬は親指を美怜の手首に当てると、優しく何度も滑らせる。
「うひゃっ、本部長!スリスリしないでください!くすぐったくて」
「あっ、ごめん。なんかすべすべして気持ち良くて」
「赤ちゃんのほっぺじゃないんですから」
美怜は慌てて手を引っ込めた。
成瀬は正面から美怜と向き合う。
「このバラのチャームをこんなに大切にしてくれてありがとう。なんか、俺がプレゼントされたみたいに嬉しいよ」
「いえ、こちらこそ。素敵なプレゼントをありがとうございました」
「気に入ってもらえて良かった」
「はい、私の大切な宝物です。本部長も、車のワイヤレスマウス、大切に使ってくださってありがとうございます」
「ああ、俺の大事なお気に入りだ」
「ふふっ、良かった」
二人で頬を緩めて見つめ合う。
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい。ありがとうございました」
両手を揃えてお辞儀をすると、美怜はくるりと向きを変えてエントランスに入っていく。
ふわっと揺れた薄紫色のワンピースが、今夜の可憐な美怜の雰囲気そのもので、成瀬の目に焼きついて残る。
エレベーターに乗り込む前にもう一度こちらを見て微笑む美怜を、成瀬は片手を挙げて優しく見守っていた。