恋とキスは背伸びして
視察旅行
「こんにちは、友香さん。メゾンテール ミュージアムへようこそお越しくださいました」

それから二週間後。
卓の案内でミュージアムにやって来た友香を、美怜は笑顔で出迎える。

「こんにちは、美怜さん。制服姿がとっても素敵ですね。お似合いです」
「ええ?あ、ありがとうございます。友香さんみたいなお嬢様にそんなこと言われるなんて。照れちゃってやりにくい…」

思わず本音をもらすと、ふふっと友香は笑う。

「卓さんに聞いてこちらに伺うのを楽しみにしていました。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。それでは早速ご案内いたしますね」

ようやくいつもの調子になり、美怜は笑顔で友香を案内した。

「すごいですね!紹介映像も感動しましたし、デザイン体験にレイアウトのシミュレーションにモデルルーム!どれも面白くて夢中になっちゃいます。私、一日中ここにいたいかも」
「ふふっ、そんなに?」
「ええ。美怜さん、こんな素敵な場所で毎日お仕事されてるなんて、うらやましいです」
「友香さんこそ!あんなに素晴らしいホテル、私、一歩足を踏み入れただけで気持ちが華やぎます」
「じゃあ時々お仕事交代しませんか?」
「友香さんの代わりなんて、私には務まりませんって」

二人は卓をそっちのけで話し込む。

どのコーナーに行っても友香は目を輝かせ、楽しい!と笑顔になる。

「友香さん、美怜。そろそろ倉庫に」

卓に促されて、ようやく二人は時間を思い出した。

「もう一時間以上経ってる!友香さん、肝心の倉庫にご案内しますね」
「はい。楽しみ!」

わくわくした様子の友香は、倉庫にずらりと並ぶ家具やインテリアを目にすると、圧倒されたように感激した。

「なんてすごい…。王様の宮殿に来たみたい。あ、こっちはお姫様のお部屋?わあ、海賊のお宝みたいなのもある!」

子どものようにくるくる表情を変える友香に、美怜と卓は顔を見合わせて微笑む。

ミュージアムでこんなに無邪気に喜ばれたのは初めてだった。

そもそも自分達より年下の相手を案内するのが初めてだ。

三人は気の合う友人のような雰囲気で、どの家具がホテルに合うか、熱心に相談し合った。

「美怜さん、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。素敵な家具もたくさん見つけられたし」
「本当ですか?良かった!私も友香さんに喜んでいただけて嬉しいです。またいつでもいらしてくださいね」

このあとは、昼食を食べながら話を詰めると言う友香と卓を笑顔で見送りながら、美怜は、うーん…と首をひねる。

(卓、彼女がいるのに友香さんと二人でランチとか、大丈夫なのかな?彼女が誰かは知らないけど、社内恋愛だったらどこで会社の人に見られるか分からないし)

余計なお世話と思いつつ、美怜は心配になる。

それ程、仲良く肩を並べておしゃべりしながら去って行く卓と友香は、良い雰囲気に思えた。
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