恋とキスは背伸びして
「美怜さん。あのね、私、どうしても気になっちゃって」

美怜が冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターを取り出して渡すと、受け取った友香はひと口飲んでから改まって口を開いた。

「あの、あの、美怜さんは、その…卓さんとは、えっと…」
「つき合ってないわよ」

顔を赤くしながら少女のように恥じらう友香に、美怜は先回りしてズバッと答えた。

「そ、そうなんですか?私てっきり…。だから、ちょっと諦めてて…」
「諦める必要なんかないわ。卓、今彼女いないって言ってたし」
「そうなんですか?!王子様みたいにかっこよくて、アイドルみたいにモテそうなのに?」

ゴフッと美怜は盛大にミネラルウォーターにむせ返る。

「と、友香ちゃん。いくら恋は盲目とはいえ、よくそんな…」
「やだっ!美怜さん。こ、恋だなんて、そんなこと!」
「じゃあ、どんなことなの?」
「うっ、それは…」

真っ赤になってうつむく友香の顔を、隣に腰掛けた美怜は、ふふっと笑って覗き込んだ。

「友香ちゃん、こんなに可愛いし仕事もできるんだから、自信持って。ね?それにもう既に卓とは恋人同士みたいに仲いいじゃない?」
「そ、そんなことは…。それに私、自分から好きになったことないから、どうしていいか分からなくて」
「やだ、可愛い!純情な乙女!私だったらすぐつき合っちゃうわ」
「お言葉は嬉しいですけど、私、美怜さんとはおつき合いできません!こめんなさい」

「いやいや、私もよ。冗談だから」と言うと、友香は「ああ!ごめんなさい!」と頬を両手で押さえる。

「ふふっ、ほんとに可愛い、友香ちゃん。思い切って告白してみたら?この旅行中に」
「でも、あの、勇気が出なくて…。断られたら気まずくなりますよね?」
「断られる心配はないと思うけど?でもまあ、友香ちゃんの気持ちも分かる。卓から告白してくれるといいのにね」
「そ、そんな!卓さんは私のこと、きっとお好きではないでしょうから。私からお願いして、ご検討いただければと」
「そんな、仕事の契約じゃないんだから。もう…。こんなに純粋な友香ちゃんに想われてるのに、なんて呑気なのかしら、卓ってば」

ブツブツ呟くと美怜はじっと考え込み、「友香ちゃん、明日も楽しい時間を過ごそうね!」と友香の肩に手を置いてにっこり笑った。
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