恋とキスは背伸びして
(どうか見つかりますように)

あのバラのチャームは美怜にとっては、もはやなくてはならないものだった。

いつも身に着けていて、ふと目にすると気持ちが安らぐ。

手で触れていると心が落ち着き、励まされる。

そんな大切なものになっていた。

チャームくらいで大げさな…と言われず、すぐに探すと言ってくれた成瀬の言葉が嬉しかった。

(こんなことなら、ずっと大切に部屋に飾っておくべきだった?でもあれを着けているから、私は毎日明るくがんばれる。いつでも私の心の支えになってくれる大事なチャームだから)

両手を組んで祈るように電話を待つが、なかなかかかってこない。

何度も確認する時計が、いよいよ二十分経っていることを示した。

(やっぱり車の中にもなかったのかな)

そう思うと泣きそうになる。
だがいつまでも成瀬に探させる訳にはいかない。

もう諦めます、と電話をかけようとした時、ピンポンとインターホンが鳴った。

「えっ?!こんな遅くに誰?」

怖々とモニターを確認して驚き、急いで応答した。

「本部長?!」
「あったよ!チャーム」
「ほんとに?!」

美怜の目に涙が込み上げる。

「ありがとうございます。すぐに行きます!」
「だめだ。俺が行くからロックを解除して」
「は、はい」

解除のボタンを押すと待ちきれず、美怜は玄関のドアを開けて廊下に出る。

エレベーターが止まり、ドアから成瀬が姿を現した。

「こら、廊下に出ない。中に入って」
「はい」

美怜はドアを半開きにしたまま玄関に入った。

すぐに成瀬がやって来て、はい、と美怜にチャームを手渡す。

「ありがとうございますっ…」

こらえていた涙が溢れ出す。

成瀬はそんな美怜の頭をポンポンとなでた。

「良かったね、見つかって」
「はい。すみません、ご迷惑をおかけしました。車の中で落とした時、気づかなくて」
「いや、車の中にはなかったよ」

え?と美怜は顔を上げる。

「俺、君が車から降りた時、左手にチャームがあるのを見てたんだ。だから落としたとしたらきっとそのあとだと思って、車でここに戻って来たんだ。ローターリーで君を降ろした辺りを探したら、落ちてたのを見つけた」
「そうだったんですか…。ロータリーだとは思ってもみませんでした。ありがとうございました」
「気にしないで。それより、ちょっと心配だ」

成瀬の言葉に、美怜はまた、え?と顔を上げた。

成瀬は後ろ手に玄関のドアを閉めると、美怜の顔を覗き込む。
< 169 / 243 >

この作品をシェア

pagetop