恋とキスは背伸びして
「本部長はソファに座っててください。今、冷たいお茶を入れますね」
「あ、どうぞお構いなく」

玄関で靴を脱ぐと、小さくなってそわそわと部屋に入って来た成瀬に、美怜はこらえ切れずにふふっと笑う。

「どうぞ、麦茶です。料理もすぐに仕上げるので、ちょっとだけ待っててくださいね」
「はい、ごゆっくり」
「…本部長、大丈夫ですか?テレビでも見てくつろいでてくださいね」
「う、うん。ごめん、なんか俺、九歳も上なのにこんなに小心者だとは。美怜にいいとこ見せたいのに、これじゃあ形無しだな」
「そんなことないですよ?」
「そうかな。優しいな、美怜は」
「ふふっ、なんだか調子狂っちゃいます。じゃあ、急いで準備しますね」

キッチンへ向かうと美怜はエプロンを着けて冷蔵庫を開ける。

「何か手伝うことある?」
「大丈夫です。夕べ下ごしらえしておいたので、温めるだけなんです」

美怜は手際良く鍋を火にかけると、グリルで魚を焼く。

その間に食器や箸置きを並べた。

「はい、どうぞ。大したものじゃなくてすみません」

ソファの前のローテーブルに、肉じゃがとホッケの塩焼き、ほうれん草のごま和えや茶わん蒸し、みそ汁を並べる。

「うわー、すごいごちそうだな。こんなにたくさん作ってくれたの?」
「ありきたりの和食ですみません。白米は一緒に食べますか?」
「いや、最後にいただくよ。どれも美味しそうだな」
「お口に合うといいですけど。それじゃあ食べましょうか」
「ああ。いただきます」

手を合わせると、成瀬は勢い良くパクパクと食べ始めた。

「旨い!はあ、五臓六腑に沁み渡る」
「そんな大げさな。本部長、いつも外食ばかりなんですか?」
「うん。だからこんな贅沢な家庭料理、すごく嬉しいよ」
「それなら良かったです。栄養偏っちゃいますから、これからはなるべく外食は控えてくださいね。こんなのでよければいつでも作りますから」

美怜がそう言うと、成瀬は手を止めてじっと美怜を見つめる。

「美怜、あの。嬉しいけど期待してしまうから、あんまり喜ばせないで」
「ええ?!えっと、はい。分かりました」

しょんぼりと肩を落とす美怜に、成瀬は慌てて手を伸ばす。

「ち、違うんだ。ごめん、美怜の気持ちはすごく嬉しいよ。俺の理性の問題なんだ。そうだよな、俺は美怜を必ず大切にすると決めたんだ。それができなくてどうする。美怜、ありがとう。またこの美味しい料理を作ってくれたら嬉しい」

成瀬の言葉を聞くと、美怜はにっこり笑って頷いた。

「はい。じゃあ次は、炊き込みご飯と天ぷらはどうですか?」
「おお!食べたい、今すぐ食べたい」
「あはは!気が早過ぎます」

二人で楽しく食事を進める。

多めに作ったつもりが、成瀬は全部ぺろりと平らげた。
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