恋とキスは背伸びして
食後のお茶を飲みながら、自然と仕事の話になる。
「富樫が友香さんと旅行のあとに打ち合わせした内容で、総支配人からOKがもらえたらしい。資料をまとめたら見せてくれるように富樫に頼んである。美怜とも共有するから、富樫と友香さんと一緒に進めてくれるか?」
「はい、承知しました」
「頼む。そう言えば、富樫と友香さん、どうなったんだろうな?美怜は何か聞いてる?」
「いいえ、何も。でも友香ちゃんから、近々ミュージアムに打ち合わせに行きたいって今日連絡がありました」
「そうなんだ。直接美怜に報告があるかもしれないね」
「ええ。二人の嬉しい報告が聞けるといいですね」
ソファに並んで座り、くつろぎながら二人は会話を楽しむ。
「そう言えば俺、車買い換えることにしたよ」
「ええー?!本当に?」
「うん。今の車は富樫さえよければ譲ろうと思ってる」
「え、売らないってこと?」
「ああ。俺もあの車には思い入れがあるから、赤の他人に売るよりは富樫に乗ってもらいたいんだ。富樫は嫌がるかな?」
「ううん。絶対喜ぶと思います」
「それならいいけど。それで新しい車、美怜も一緒に選んでくれないか?」
ええーっ?と美怜は思い切り仰け反る。
「そ、そんな、私なんかが選ぶなんて。本部長の車だから、きっととっても高級な車でしょう?」
「別に高級車が欲しい訳じゃないよ。安全で壊れにくくて、あと、助手席の座り心地がいい車」
助手席…と美怜が呟くと、成瀬はちょっといたずらっぽく美怜の顔を覗き込んできた。
「俺、今美怜を口説くのに必死だからさ。少しでも美怜に喜んでもらいたいんだ。車の力を借りるなんて、せこいかな?」
「そういう訳じゃないけど…。でも、あの、私の希望で車を選ぶのはちょっと、荷が重いというか」
「もちろん、美怜に重荷を負わせるつもりはないよ。俺のことが嫌いになったら遠慮なく振ってくれたらいい。いや、本音は嫌だけど。そうならないように、全力で口説き落としてみせるから」
そう言うと成瀬は、さてと!とソファから立ち上がる。
「そろそろ帰るよ。美味しい食事をありがとう」
「え…」
もう帰るの?と言いそうになり、美怜は慌てて言葉を飲み込んだ。
玄関で靴を履いた成瀬は、美怜を振り返る。
「おやすみ、美怜」
「おやすみなさい」
「ん?どうかした?元気ないね」
「ううん。なんでもないです」
「そう?じゃあまた連絡する。今日はありがとう」
そして成瀬は美怜の頭にポンと右手を載せた。
そのままスルスルと髪を梳くように手を滑らせて肩に手を載せると、少し屈んで美怜の瞳を覗き込む。
首を傾げてじっと見つめてくる成瀬の眼差しは、いい?と尋ねているようにも感じられた。
美怜は恥ずかしさの余り顔を上げられず、そっと上目遣いに成瀬を見る。
いつの間にか目は潤み、顔も赤くなっていた。
成瀬はゆっくりと美怜に顔を寄せると、ギリギリ唇が触れそうな手前で動きを止める。
思わず美怜が身体を固くしていると、成瀬の唇はスッと逸れて、美怜の左の頬に触れた。
チュッとかすかな音を立て、温かさを残した唇が頬から離れる。
「おやすみ、美怜」
耳元でささやくと、成瀬は玄関を開けて出て行った。
「富樫が友香さんと旅行のあとに打ち合わせした内容で、総支配人からOKがもらえたらしい。資料をまとめたら見せてくれるように富樫に頼んである。美怜とも共有するから、富樫と友香さんと一緒に進めてくれるか?」
「はい、承知しました」
「頼む。そう言えば、富樫と友香さん、どうなったんだろうな?美怜は何か聞いてる?」
「いいえ、何も。でも友香ちゃんから、近々ミュージアムに打ち合わせに行きたいって今日連絡がありました」
「そうなんだ。直接美怜に報告があるかもしれないね」
「ええ。二人の嬉しい報告が聞けるといいですね」
ソファに並んで座り、くつろぎながら二人は会話を楽しむ。
「そう言えば俺、車買い換えることにしたよ」
「ええー?!本当に?」
「うん。今の車は富樫さえよければ譲ろうと思ってる」
「え、売らないってこと?」
「ああ。俺もあの車には思い入れがあるから、赤の他人に売るよりは富樫に乗ってもらいたいんだ。富樫は嫌がるかな?」
「ううん。絶対喜ぶと思います」
「それならいいけど。それで新しい車、美怜も一緒に選んでくれないか?」
ええーっ?と美怜は思い切り仰け反る。
「そ、そんな、私なんかが選ぶなんて。本部長の車だから、きっととっても高級な車でしょう?」
「別に高級車が欲しい訳じゃないよ。安全で壊れにくくて、あと、助手席の座り心地がいい車」
助手席…と美怜が呟くと、成瀬はちょっといたずらっぽく美怜の顔を覗き込んできた。
「俺、今美怜を口説くのに必死だからさ。少しでも美怜に喜んでもらいたいんだ。車の力を借りるなんて、せこいかな?」
「そういう訳じゃないけど…。でも、あの、私の希望で車を選ぶのはちょっと、荷が重いというか」
「もちろん、美怜に重荷を負わせるつもりはないよ。俺のことが嫌いになったら遠慮なく振ってくれたらいい。いや、本音は嫌だけど。そうならないように、全力で口説き落としてみせるから」
そう言うと成瀬は、さてと!とソファから立ち上がる。
「そろそろ帰るよ。美味しい食事をありがとう」
「え…」
もう帰るの?と言いそうになり、美怜は慌てて言葉を飲み込んだ。
玄関で靴を履いた成瀬は、美怜を振り返る。
「おやすみ、美怜」
「おやすみなさい」
「ん?どうかした?元気ないね」
「ううん。なんでもないです」
「そう?じゃあまた連絡する。今日はありがとう」
そして成瀬は美怜の頭にポンと右手を載せた。
そのままスルスルと髪を梳くように手を滑らせて肩に手を載せると、少し屈んで美怜の瞳を覗き込む。
首を傾げてじっと見つめてくる成瀬の眼差しは、いい?と尋ねているようにも感じられた。
美怜は恥ずかしさの余り顔を上げられず、そっと上目遣いに成瀬を見る。
いつの間にか目は潤み、顔も赤くなっていた。
成瀬はゆっくりと美怜に顔を寄せると、ギリギリ唇が触れそうな手前で動きを止める。
思わず美怜が身体を固くしていると、成瀬の唇はスッと逸れて、美怜の左の頬に触れた。
チュッとかすかな音を立て、温かさを残した唇が頬から離れる。
「おやすみ、美怜」
耳元でささやくと、成瀬は玄関を開けて出て行った。