恋とキスは背伸びして
(ん?卓よ、なぜそっちに座る?)

ミュージアムから程近いカフェに入ると、スッと友香の隣の席に座った卓に、美怜は心の中で違和感を覚える。

会社の取引先として、今までは自分達が並んで友香と対面で座っていた。

もしや…と気になりつつも、美怜はメニューに目を落とす。

すると小さくやり取りする声が聞こえてきた。

「友香の好きなグリルサンドがあるよ」
「本当?じゃあそれにしようかな」

美怜は、ヒッ!と声にならない声を上げてメニューで顔を隠した。

(な、なに今の雰囲気。それに卓、『友香の好きな…』って言ったよね?友香って呼び捨て?これはもう確定でしょう)

必死で気持ちを落ち着かせると、何事もなかったかのように口を開く。

「えーっと、私はワンプレートランチにしようかな」

なぜだか大根役者のような棒読みになってしまう。

卓はスタッフを呼んで三人分のオーダーを済ませると、なにやら友香と顔を見合わせてアイコンタクトを取ってから、美怜に向き合った。

「美怜に話しておきたいことがあるんだ。実は…」

卓の改まった口調に、美怜はまたしてもヒーッ!と仰け反る。

「ちょ、ちょっと待って!お父さん心臓がもたないよ」
「は?何、お父さんって」
「だからあれでしょ?お嬢さんを僕にください!ガバッ!ってやつ」
「なんで俺が美怜にそんなセリフ言うんだよ」
「今、言いそうになってたじゃない」
「言うかよ」

やれやれとため息をついてから、卓はちょっとぶっきらぼうに言う。

「まあ、もう見当ついてるとは思うけど。俺、友香とつき合うことにしたから」
「ひゃー!実際こうして聞くと、とてつもないパンチ力!ハートが打ち抜かれそう…」
「いちいち大げさだな。ま、そういうことで。この話は終わり」
「お、終わらないで!ちゃんとおめでとうを言わせて」

胸に手を置いて気持ちを落ち着かせると、美怜は友香ににっこりと笑いかけた。

「おめでとう!友香ちゃん。良かったね!私もとっても嬉しい」
「ありがとうございます。美怜さんのおかげです。これからもよろしくお願いします」
「もちろんよ。卓に何かされたらすぐに教えてね」
「えっ?何かって、それは、その…」

真っ赤になってうつむく友香に、美怜は、ん?と首をひねる。

「あっ!まさか、そっちの何か?違う、違うのよ友香ちゃん。卓に冷たくされたり、友香ちゃんを泣かせるようなことがあったら私が許さないって意味で」
「そ、そうでしたか。お恥ずかしい…。でもあの、卓さんはそんなことするような人ではないので、ご安心ください」
「そっかー。卓、もう友香ちゃんにぞっこんなんだね」

ニヤニヤと視線を向けると、卓はガラにもなく困ったように照れてうつむいた。

「うひゃー、ラブラブじゃない。卓も友香ちゃんも、私の大親友だもん。自分の事みたいに嬉しい!お二人ともお幸せにね。卓、友香ちゃんを頼んだわよ?」
「ああ、分かってる」

美怜は満面の笑みでもう一度、おめでとう!と二人を祝福した。
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