恋とキスは背伸びして
「準備できました。どうぞこちらへ」

呼びに来たセールスマンに促されて外に出ると、シルバーに輝く流れるように美しいラインの車がそこにあった。

「わあ、かっこいいですね」
「ああ。やっぱりセダンもいいな」

早速成瀬がハンドルを握って公道に出る。

「うん、走りも静かだし伸びが良くていい。思ったよりコーナーも曲がりやすいし」

満足気な成瀬が、美怜はどう?と尋ねる。

「はい。シートの座り心地もとってもいいです。なんだか社長になった気分」
「あはは!それは良かった」
「あまりに気持ち良くて、すぐに寝ちゃいそうです」
「いいよ、寝てて。あ、今はだめね」
「さすがにこんな短時間で寝ませんよ」

すると後ろから「いいですねー、仲良しのご夫婦って」とセールスマンの声がした。

「お二人を拝見していると、私も早く結婚したくなりました」

いやいやいや、と美怜が否定しようとすると、しみじみと成瀬が口を開く。

「私も二十代の頃は全く結婚願望なんてなかったんですよ。でも本気で好きな人ができると、コロッと気持ちが変わって。自分でも驚きました」
「そうなんですか!奥様の存在って、すごいんですね」

いやいやいやいやー!と心の中で叫ぶものの、空気が読める美怜は、やんわりと愛想笑いを浮かべた。
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