恋とキスは背伸びして
ようやく歩き始めると、池を通り過ぎた少し先に東屋があった。

「こちらで花火をお楽しみいただけますよ。よろしければいかがですか?」

中にいたスタッフが、にこやかに線香花火を渡してくれる。

美怜は子どものような笑顔で受け取った。

「線香花火って、日本のわび・さびが詰まってますよね。華やかだけど控えめで、美しいけどはかなげで」

パチパチとかすかな音を立てる繊細な線香花火を見つめながら、美怜が呟く。

その横顔は、まさに華やかながら控えめで、美しくもはかない。

ほのかな竹ぼんぼりの灯りの中で、成瀬は胸が痛むような切なさと愛しさを感じながら、美怜の綺麗な横顔から目を離せずにいた。
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