恋とキスは背伸びして
「あの、あのね」
「うん。なに?」
「私、ちょっと自信がなくて。本部長の隣にいてもいいのかなって。釣り合わないんじゃないかって。精一杯、本部長に似合う大人の女性になろうってがんばってるけど、やっぱり不安で。どう見えてるかな?子どもっぽいって思われてない?それに本部長は、ウンと格上の人だし。私、まだまだ社会人としても未熟者だから、本部長にはふさわしくないんじゃないかって…」

成瀬は驚いたように動きを止める。
美怜はますます不安に駆られた。

「あの、本部長?」
「…逆だと思ってた」

ぽつりと呟く成瀬に、え?と美怜は首を傾げる。

「逆って?」
「俺の方が美怜にふさわしくないって」
「ええ?!どうして?」
「だって九歳も離れてる。こんなに若くて可愛い美怜に、俺なんかでいいんだろうかって。美怜のご両親にも、俺みたいなおじさんに大事な娘はやれないって思われるんじゃないかって、不安だった。いつか美怜も、話が合う同年代の相手が良かったって、後悔するかもしれないって」
「そんな!私、そんなこと思う訳ありません」

思わず美怜は、咎めるように成瀬を見上げた。

「私はそんな半端な気持ちであなたを好きになってません。私のこの先の人生をかけて、ずっと一生あなたのそばにいようって決めたんです。その私の覚悟を甘く見ないでください」

きっぱりと言い切る美怜に、またしても成瀬は固まる。

そして参ったと言わんばかりに表情を崩した。

「かっこいいな、美怜。子どもっぽいだなんて、思うもんか。九歳離れてようが、上司だろうが、全く臆することなく正面切って気持ちをぶつけてくれたんだ。さすがは俺が惚れた女だ」

ブワッと美怜の顔が赤くなる。

「あはは!可愛いな、美怜。かっこ良くて可愛い。最高の彼女だよ」

ポンと美怜の頭に手を置くと、成瀬は顔を寄せて耳元でささやく。
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