恋とキスは背伸びして
「でも美怜、一つだけ言わせて。いつになったら俺のこと名前で呼んでくれるの?」
「え、そ、それは…」
「俺のフルネーム、『成瀬 本部長』じゃないんだけど?」
「でも私、本部長のことは二度とお名前で呼ばないって決めたから」
「恋人になっても?おかしいだろ。やれやれ、変なところまで強情なんだから」

美怜は、むっとして顔を上げた。

「変なところじゃないです!」
「じゃあどんなところ?」

そう言うと成瀬は、いきなり美怜の頬にチュッとキスをした。

「なな、何を…」

思わず身を引くと、成瀬は逃さないとばかりに美怜を腰をグッと抱き寄せる。

「美怜が名前を呼んでくれるまで離さない」
「ええ?!どうして?」
「どうしてって、当たり前だろ?これでも結構待ったんだぞ。富樫のことは、卓って気軽に呼ぶのに。やっぱり俺はおじさん扱いなのかって、いじけてた」
「いじけてたの?どうして、おじさん?」
「ちょっと!美怜?!」

ああっ、ごめんなさい!と美怜は慌てた。

「違うんです!そうじゃなくて。どうしていじける必要があるのかって。本部長はおじさんじゃないのにって」
「もう、つべこべうるさい!」

成瀬は美怜の頭を抱き寄せると、唇を熱く奪う。
美怜は目を見開いて顔を赤らめた。

「本部長、あの、こんなところで…」
「俺を焦らす美怜が悪い」

そう言うと、何度も角度を変えて美怜にキスをする。

「ん…、だめ。誰か、来ちゃう」

美怜が呟くと、その吐息ごと成瀬はまた深く口づけた。

「ねえ、もう、んっ、ほんとに、だめ…」
「じゃあ、名前を呼んで?」

成瀬は美怜の耳元でささやくと、そのまま首筋に沿ってキスの雨を降らせる。

美怜の言葉を待つように、唇を避けて。

その時、かすかな話し声がして誰かが近づいてくる気配がした。

「ほんとにだめ。ね?隼斗さん」

ピタッと成瀬が動きを止める。
と言うよりは、固まった。

「あの…?」

美怜がそっと顔を覗き込むと、成瀬は顔を真っ赤にしたまま右手で口元を覆った。

「参った、想像以上の威力」
「え?」

成瀬は大きく息を吐くと、美怜を両手で抱き寄せる。

「もう一回呼んで?」

耳元でねだるようにささやかれ、美怜はくすぐったいやら恥ずかしいやらで、思わず目を伏せた。

「えっと、あの。また今度ね」
「今度って、いつ?」
「うーんと、一時間後かな?」
「なんだよそれ。鳩時計か?」

その時、話し声がすぐ近くで聞こえて、美怜はパッと身体を離した。

そのまま成瀬の腕を取って歩き出す。

「あの、ほら!夜のショーが始まっちゃう。見に行こう?」
「ああ、そうだな。一時間後に可愛い鳩が俺に鳴いてくれるのを楽しみにしてる」

ニヤリと笑う成瀬に、美怜は真っ赤になってうつむいた。
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