恋とキスは背伸びして
「おはよう、美怜」
「おはようございます!」

翌日の美怜の誕生日。
車で迎えに来てくれた成瀬に、真っ白なコートとロングブーツで現れた美怜は満面の笑みで挨拶する。

「お、元気でよろしい」
「うん!だってこの日をすごく楽しみにしてたんです」
「俺もだよ。じゃあ早速行こうか」
「はい!」

成瀬は美怜の荷物をトランクに入れると、助手席のドアを開ける。

まずは赤坂にある迎賓館に向かった。

明治四十二年に東宮御所として建設された、日本で唯一のネオ・バロック様式の西洋建築物『迎賓館赤坂離宮』

世界各国の国王や大統領、首相などの賓客を迎えるための迎賓施設だが、一般公開もされている。

本館や正門は国宝にも認定されており、細部に施された伝統の技は、当時の日本の建築、美術、工芸界の総力を結集したと言われていた。

「ここは建築家、片山東熊の代表作でもあるんだけど、ただひとつ、西洋にはない日本ならではの課題があったんだ。それが耐震性」
「耐震性って、地震の?」
「ああ。地震が頻繁に起こる日本の宮殿には、西洋よりも高い耐震性が求められて、片山は鉄骨をアメリカから輸入してレンガを補強したんだ。建設費は今の価値だと千億円程らしいよ」
「千億?!」

成瀬の話を興味深く聞きながら、まずは本館を訪れた。

「わあ、まるで外国に来たみたい」

そこに広がる豪華絢爛な空間に、美怜は感嘆のため息をつく。

玄関ホールに敷かれた深紅の絨毯。
真っ白な壁にはきらびやかな金箔の装飾。

「この壁や天井の色もただの白じゃないんだ。一般的な白に琥珀色を混ぜた、色見本にはない『迎賓館だけの白』なんだって」

床のタイルは、イタリア産の大理石ビアンコ・カララと、東京駅の屋根にも使用されている宮城県産の玄昌石を組み合わせた市松模様。

玄関ホールを東西に貫く廊下は、パリ・オペラ座のモザイクも手掛けたイタリア人ファッキーナによるモザイクタイル。

美怜はあちこちに目をやり、感激しながら、いよいよ最初の部屋に足を踏み入れた。
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