恋とキスは背伸びして
ローズボックス
車に戻ると、いよいよホテルに向かう。

「前に来た時は、この車を試乗したあとでしたよね」
「ああ。あの時はまだスポーツカーだったな。今頃は富樫と友香さんに乗ってもらってるだろうか」
「ふふ、きっとそうですよ」

まだ恋人になる前に訪れたホテルを、今はこうして婚約者として戻って来られたことに、美怜は感慨深くなった。

バレーパーキングで車を預けると、すぐさまスタッフが荷物を受け取る。

「一泊で予約した成瀬です」
「成瀬様ですね。本日はようこそお越しくださいました。エグゼクティブラウンジで専任スタッフがお待ちしております。どうぞこちらへ」

身のこなしも美しい男性スタッフに案内されて、十五階へ上がる。

「わあ、素敵なラウンジですね。高級感があって、落ち着いた雰囲気で。カウンターとかテーブルもダークブラウンでまとめられてシックですね」
「そうだな。できればメゾンテールの家具を取り入れて欲しいところだが」
「ふふっ、今度卓に営業に行ってもらいましょうか」

そんなことを話していると、大きなテーブルに促された。

専任の女性スタッフがにこやかにチェックインの手続きを進める。

美怜はその間もラウンジの様子をそっと横目でうかがい、奥にドリンクや美味しそうな軽食があるのに気づいた。

デニッシュやカナッペ、キッシュやプチガトーが見た目も美しく豪華に並んでいる。

(美味しそう…)

見とれていると、グルグルーと美怜のお腹が鳴った。

「あはは!美怜、分かりやすいな」

成瀬に笑われて、美怜は真っ赤になる。

「もう!だって朝から何も食べてないんだもん。それにあんなに美味しそうだし」
「そうだな、ごめん。実はアフターヌーンティーを予約してあるんだ」
「そうなの?この間のロビーラウンジの?」
「いや、宿泊者限定のラウンジで、特別なメニューなんだって。早速行こう」
「はい!」

荷物は部屋に運んでくれるとのことで、ルームキーだけ受け取り、プレミアムラウンジへと向かった。
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