恋とキスは背伸びして
美怜がサロンに行ってからまだ四十分しか経っていない。

二時間のコースにネイルまでやるのだから、まだまだ充分時間はある。

落ち着け、と深呼吸してから、成瀬はベッドルームのクローゼットを開けた。

美怜に見つからないように隠しておいた、小さなリングケースを取り出す。

そこにも綺麗な白いリボンが掛けてあって心が痛んだが、仕方なく詫びつつリボンを解く。

そっとケースを開けると、ダイヤモンドがキラキラとまばゆく輝いていた。

美怜の誕生日にプロポーズをーーー

成瀬はそう決めて、この日の為に準備をしてきた。

卓と友香に協力してもらい、友香に美怜の指のサイズを確かめてもらう。

「美怜さん、私が卓さんからもらった婚約指輪をはめていたら、綺麗ねって言ってくれたんです。友香ちゃんの指によく似合ってるねって。その時さり気なく、六号なんですって言ったら、私と一緒だ!って」
「おおー、友香でかした!」

そう言って二人は、「成瀬さん、がんばって!」と拳を握って励ましてくれたっけ。

指輪を選ぶのにもあれこれと頭を悩ませた。

ジュエリーショップを何軒も回り、大きな一粒ダイヤの左右に小さくバラをモチーフにしたダイヤがついた指輪を見て、これだ!と決めた。

このバラなら、失くす心配もなく、ずっと美怜が身に着けていられる。

この指輪を、自分の愛の証として美怜に贈りたい。

もう一度じっと指輪を見つめ、想いを込めると、成瀬はそっと指輪を手に取った。

そしてローズボックスの真ん中のリング台に差し込む。

真っ赤なバラに囲まれて燦然と輝く美しい指輪。

美怜は喜んでくれるだろうか?

以前、美怜のマンションで結婚を約束した。

だが改めて今夜、この指輪と共にプロポーズする。

成瀬は表情を引き締めて頷いた。
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