恋とキスは背伸びして
「成瀬様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

最上階のフレンチレストランで、二人は個室に案内される。

コース料理と食後のバースデーケーキは事前に頼んでおり、成瀬はワインメニューだけ受け取った。

美怜の希望も聞きながら、ロゼワインをオーダーする。

「美怜、お誕生日おめでとう」
「ありがとう!とっても嬉しいです」

ワインで乾杯して、美味しいフランス料理を味わう。

窓からはライトアップされた庭園が綺麗に見下ろせた。

「私ね、山梨の田舎で育ったから、ずっと都会に憧れてたんです」

ナイフとフォークを美しく使いながら、美怜が伏し目がちに話し出す。

「インターネットで色んなホテルや、今日の迎賓館のホームページを見て、いいなあ、こんな素敵なところにいつか行ってみたいなって」
「それで東京で働こうと思ったの?」
「はい。洋風の素敵な家具を買いたくても、山梨の和風の家には似合わないから。どうしても都会の洗練された空間を見てみたかったんです。メゾンテールに就職してミュージアムに配属された時は、毎日たくさんの家具に囲まれて仕事ができるって、とっても嬉しかったのを覚えています」
「そう。今も楽しい?」
「ええ、もちろん。このホテルの家具もとっても素敵でしょう?刺激を受けて、こんなデザインの家具がいいなって、アイデアが一杯浮かんできました。うちの家具のこれとこれを組み合わせたら良さそうだなって、お客様にもご提案したいって」

そう言って微笑む美怜は美しく、九歳も離れているとは思えない。
成瀬にとってこれ以上ない程、魅力にあふれた女性だった。

コース料理の最後にスタッフがホールケーキを美怜の前に置くと、美怜は目を真ん丸にして驚く。

その姿は、思わず笑みがこぼれる程あどけなく可愛らしかった。

どんな美怜も愛おしい。
美怜の全てを愛している。

成瀬は湧き上がるその気持ちを胸に、美怜の肩をしっかり抱いて部屋に戻った。
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