恋とキスは背伸びして
ルミエール ホテル
コンベンションセンターのオープニングセレモニーが終わり、一週間が経った頃。

執務室で一人パソコンに向かっていた成瀬は、内線電話の呼び出し音に、キーボードを打つ手を止めて受話器を上げる。

「はい、成瀬です」
「お疲れ様です、総合案内の三上です。代表電話にルミエール ホテルの倉本様から、営業部の成瀬さん宛にお電話が入っております」
「ルミエールの、倉本さん?」

成瀬は久しぶりに聞く名前に驚いて、思わず聞き返した。

「はい、そうです。成瀬は営業部を異動になりましたとお伝えしましたが、それでも成瀬さんとお話がしたいとのことでした。いかがいたしましょうか?」
「分かりました、繋いでください」
「かしこまりました」

回線がつながるのを待つ間、成瀬は倉本のことを思い返す。

あれは営業部の五年目のことだっただろうか?

業績が落ち込み始めたルミエール ホテルに営業をかけたことがあった。

このままではますます客足は遠のく。大きなイノベーションを起こすべきだと。

そして成瀬は、ルミエール ホテルの全客室に、メゾンテールの最高級のベッドを取り入れることを提案した。

寝心地の良さはクチコミでも定評があり、アスリートや芸能人が愛用しているとSNSで発信したことから、当時はかなり注目されていたベッドだ。

話題のベッドを取り入れることによって注目を集め、このホテルに泊まってみたいと予約が増える。

メゾンテールにとっても、お客様がベッドの寝心地を確かめる良いチャンスになり、ホテル側と両者ウィンウィンの関係になることから、破格の値段でベッドを提供したのだった。

成瀬の思惑通り、ホテルの知名度は一気に上がって予約も増え、ベッドの売り上げも伸びたことから、倉本と二人で互いに喜び合った経緯がある。

(懐かしいな。倉本さん、お元気だろうか)

あの当時は四十代だったが、もしかすると今は五十歳を過ぎ、おそらく昇進も果たしているだろう。

そう思っていると再び呼び出し音が鳴り、成瀬は光っている番号のボタンを押した。
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