恋とキスは背伸びして
(いやー、待って。やっぱり考えちゃう。どういうことなの?行かなきゃだめなの?本部長の執務室に?)

ランチもそこそこに、美怜は緊張の面持ちで電車に揺られる。

だがわずか三駅。
あっという間に本社に到着した。

(はあ、もう心臓がもつかどうか…。とにかく失礼のないように)

エレベーターで十五階まで上がり、教えられた本部長の執務室の前まで来ると、美怜は胸に手を当てて何度も深呼吸する。

(よし。結城 美怜、行きますっ!)

気合いを入れると、勢いに任せてドアをノックする。

「どうぞ」

聞こえてきた低くて艶のある声に、思わずくるりと背を向けて立ち去りたくなる。

だがなんとかこらえて声を振り絞った。

「失礼いたします」

ドアを開けると、すぐさま頭を下げる。

「広報部の結城です。よろしくお願いいたします」
「入って。ソファにどうぞ」
「はい。失礼いたします」

そっと視線を上げると、正面の大きなデスクに成瀬の姿が見えた。

ワイシャツの袖を肘までまくり、ネクタイも外してリラックスした様子の成瀬は、ジャケットを着ている時には気づかなかったが体格ががっしりしている。

「どうぞ、座って」

そう言って立ち上がると、ソファに近づいて来た。

「は、はい。失礼いたします」

距離を詰められて美怜は後ずさり、ソファに腰を下ろす。

こんな調子ではあと三分が限界だと、ウルトラマンのように頭の中で警告音が鳴り響いた時だった。

コンコンとノックの音のあと、聞き慣れた声がした。

「営業部の富樫です」

え、卓?!と、美怜は思わずドアを振り返る。

「どうぞ、入って」
「はい。失礼いたします」

ドアを開けてお辞儀をした卓は、美怜を見て驚いたように目を見開く。

「わざわざ来てもらって悪かった。今日は二人に話がある。座って」
「はい」

卓が美怜の隣に座ると、向かい側に成瀬も腰を下ろした。
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