恋とキスは背伸びして
相田(あいだ)さん。今そちらの映像エリアに向かった男性二人組のお客様、普段着ですが恐らく同業他社です』
『了解です、気にかけておきます。あ、結城(ゆうき)さん。右斜め後ろにいる男性、あなたのこと盗撮しようとしてるわよ。気をつけて』
『はい、気をつけます。ありがとうございます。佐野さん。展示エリアにいらっしゃる中国の方、英語があまり通じません。中国語の対応お願いできますか?』
『分かりました、すぐに向かいます。結城さん。デザイン体験中のお子様のグループ、会社訪問を夏休みの自由研究にするそうです。フォローしてもらえますか?』
『承知しました、お声かけしますね。西川さん、今オンラインショッピングコーナーに向かっていらっしゃる若いご夫婦、フローラルシリーズをご検討中です』
『フローラルね、了解しました。ラインナップ表示しておきます』

次々と耳に飛び込んでくる内容に、成瀬は驚きを隠せずに目をしばたかせる。

これが本当に今、広いフロアのあちこちで、笑顔で接客しているスタッフ達の言葉なのだろうか?

よく見ると彼女達は笑顔を崩さずお客様と話しながら、時折少し身体の角度を変えて胸元の発信ボタンに手をかけている。

さりげなくスタッフ同士で会話のやり取りをしているなど、お客様は気づいていないだろう。
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