恋とキスは背伸びして
「結城さん」
「は、はい」
「ちょっとここに座ってくれる?話がしたい」

美怜は身体をビクッとさせてから、はい、と答えて向かい側のソファに腰を下ろす。

「結城さん。これから我々は三人でルミエール ホテルとの打ち合わせに臨む。先方に、メゾンテールと契約したいと思っていただけるように、力を合わせて取り組もう」
「はい」
「だが、今の君のその態度では、おそらく上手くいかない」

え…、と美怜は絶句する。

「私はこの件に、是非とも富樫くんと結城さんに力を借りたいと思ってお願いした。営業マンとしての富樫くんの心意気と、我が社の顔となり堂々と相手にアピールする君の度胸に惹かれてね。だけど、君は私を前にすると萎縮するようになってしまった。君が私の顔色をうかがうと、それは先方にも伝わる。上司に怯える部下というイメージしか持たれない。今の君では、本来の君らしく、自信を持ってミュージアムを案内することはできないだろう。それでは絶対に契約は取れない」

美怜は膝に載せた両手をギュッと固く握りしめた。

言われていることは、もっともだと納得できる。

(このままではいけない。本部長に対してビクビクするようでは)

けれど、そう思えば思うほど、美怜はますます緊張した。

「結城さん。先方の前では上司も部下も関係ない。同じプロジェクトに挑む同志だ。対等な立場なんだよ」
「はい」

意を決しておずおずと視線を上げると、成瀬は目が合った途端、ふっと美怜に柔らかく微笑んだ。

「おかしいな、どうしてこんなに身構えられるんだろう?俺、なんかしたっけ?」

自虐気味にそう言う成瀬に、美怜は慌てて首を振る。

「いえ、違うんです。悪いのは私です。社会人になって少し慣れてきた頃で、気が緩んでしまった私がいけないんです」
「…どうしてそう思うの?」
「それは、その…。入社したての頃なら絶対にあんなことはしなかったのに。課長や先輩達が優しくて、つい甘えてしまっていたんです。だから私、いつの間にか知らず知らずのうちに、傲慢な態度を取るようになってしまって…」

声が震え、涙が込み上げてくる。
だが泣いてはいけない。
悪いのは自分だから。
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