恋とキスは背伸びして
「どうだい?一日中こんな感じだよ。今日は団体予約が立て込んでないから、まだ余裕がある方かな」
「はっ、その、驚きすぎて言葉が…」
「ははは!そうだろうな。他の部署の社員もほとんどがこの実態を知らない。彼女達が我が社の先鋭部隊だってことをね」
先鋭部隊、と成瀬は呟く。
「ここでは、もちろん一般のお客様の接客や企業への営業もするが、外国企業のCEOのVIP待遇や行政への対応もする。マスコミの取材も受けるし、子ども達の課外授業や社会科見学ではレクチャーもする。B to B、B to Cだけでなく、B to G、つまりBusiness to Governmentや、D to C、Direct to Consumerにも対応しているんだ」
入江は実際にミュージアムの中を歩きながら説明する。
成瀬もあとをついて歩きながら、お客様とスタッフの会話に耳を傾けた。
「ここって、加山?」
聞こえてきた男性客の言葉に、何の話だ?と眉根を寄せていると、まだ若い女性スタッフが笑顔で答える。
「はい。このミュージアムの建設は加山建設、設計は日向設計にお願いしました。今年の空間ベストデザインアワードをいただいております」
「あー、やっぱり加山と日向か。シーリングハイは?八か九?」
「天井高は九メートルございます」
会話の流れについていけず、成瀬はただ困惑するばかりだ。
(建築業界の人か?確かにこのミュージアムは見ごたえある造りだが、そんな質問までされるとは)
質問にスラスラと答えてみせた若いスタッフにもう一度目を向けた成瀬は、ん?と首をひねる。
(彼女、どこかで見かけたような…)
しばし考えてから、あ!と思い出す。
(今朝、階段から滑って落ちてきたあの子だ)
私服で髪を下ろしていた朝とは違い、髪型も後ろでシニヨンにまとめ、オフホワイトにネイビーのバイカラーの制服を着ているが、大きな瞳と笑顔が印象的な彼女は、あの時富樫に、じゃあね!と笑いかけていた本人に間違いない。
そう思っていると、入江が近づいて行って彼女に声をかけた。
「結城さん、十一時からの法人案内、彼も同行していいかな?ミュージアムに来るのは初めてなんだって」
「はい、もちろんです」
笑顔で振り返った彼女は、次の瞬間目を丸くする。
「もしかして、今朝の方ですか?」
「ん?なんだ。結城さん、成瀬くんと知り合いだったの?」
「いえ、違うんです。今朝階段から落ちたところを、こちらの方が助け起こしてくださって…」
「ええ?!結城さん、また階段から落ちたの?」
「またって、課長。まだ三回目ですよ?」
「三回も落ちれば充分だよ!」
あんなに派手に階段から滑り落ちるのが三回目とは!と、成瀬は心の中でおののく。
すると、階段滑り落ち彼女が、にっこり笑ってお辞儀をした。
「初めまして。広報部コーポレートミュージアムチーム所属の結城と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
成瀬も慌てて姿勢を正す。
「初めまして。本日から本社に異動になった成瀬です。今日は色々勉強させてもらいます。邪魔にならないよう気をつけるので、どうぞよろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。そろそろ営業担当者が法人のお客様をお連れする頃ですので、エントランスでお迎えしたいと思います」
「分かりました」
そして二人でエントランスホールに戻った。
「はっ、その、驚きすぎて言葉が…」
「ははは!そうだろうな。他の部署の社員もほとんどがこの実態を知らない。彼女達が我が社の先鋭部隊だってことをね」
先鋭部隊、と成瀬は呟く。
「ここでは、もちろん一般のお客様の接客や企業への営業もするが、外国企業のCEOのVIP待遇や行政への対応もする。マスコミの取材も受けるし、子ども達の課外授業や社会科見学ではレクチャーもする。B to B、B to Cだけでなく、B to G、つまりBusiness to Governmentや、D to C、Direct to Consumerにも対応しているんだ」
入江は実際にミュージアムの中を歩きながら説明する。
成瀬もあとをついて歩きながら、お客様とスタッフの会話に耳を傾けた。
「ここって、加山?」
聞こえてきた男性客の言葉に、何の話だ?と眉根を寄せていると、まだ若い女性スタッフが笑顔で答える。
「はい。このミュージアムの建設は加山建設、設計は日向設計にお願いしました。今年の空間ベストデザインアワードをいただいております」
「あー、やっぱり加山と日向か。シーリングハイは?八か九?」
「天井高は九メートルございます」
会話の流れについていけず、成瀬はただ困惑するばかりだ。
(建築業界の人か?確かにこのミュージアムは見ごたえある造りだが、そんな質問までされるとは)
質問にスラスラと答えてみせた若いスタッフにもう一度目を向けた成瀬は、ん?と首をひねる。
(彼女、どこかで見かけたような…)
しばし考えてから、あ!と思い出す。
(今朝、階段から滑って落ちてきたあの子だ)
私服で髪を下ろしていた朝とは違い、髪型も後ろでシニヨンにまとめ、オフホワイトにネイビーのバイカラーの制服を着ているが、大きな瞳と笑顔が印象的な彼女は、あの時富樫に、じゃあね!と笑いかけていた本人に間違いない。
そう思っていると、入江が近づいて行って彼女に声をかけた。
「結城さん、十一時からの法人案内、彼も同行していいかな?ミュージアムに来るのは初めてなんだって」
「はい、もちろんです」
笑顔で振り返った彼女は、次の瞬間目を丸くする。
「もしかして、今朝の方ですか?」
「ん?なんだ。結城さん、成瀬くんと知り合いだったの?」
「いえ、違うんです。今朝階段から落ちたところを、こちらの方が助け起こしてくださって…」
「ええ?!結城さん、また階段から落ちたの?」
「またって、課長。まだ三回目ですよ?」
「三回も落ちれば充分だよ!」
あんなに派手に階段から滑り落ちるのが三回目とは!と、成瀬は心の中でおののく。
すると、階段滑り落ち彼女が、にっこり笑ってお辞儀をした。
「初めまして。広報部コーポレートミュージアムチーム所属の結城と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
成瀬も慌てて姿勢を正す。
「初めまして。本日から本社に異動になった成瀬です。今日は色々勉強させてもらいます。邪魔にならないよう気をつけるので、どうぞよろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。そろそろ営業担当者が法人のお客様をお連れする頃ですので、エントランスでお迎えしたいと思います」
「分かりました」
そして二人でエントランスホールに戻った。