恋とキスは背伸びして
「もう大成功じゃないですか?ねえ、成瀬さん」

三人でタクシーに乗り、ミュージアムに向かう車内で、助手席の卓が後ろの成瀬を振り返る。

「そうだな。思った以上に反応も良かったし、無事に契約も取れたし。なんか上手くいき過ぎて怖いくらいだな」
「えー?成瀬さんでもそんなふうに思うんですか?これくらい俺様にとっては当たり前よ、とか思ってらっしゃるかと」
「そんな恥ずかしいセリフ言う訳あるか!なんだよ、俺様って」
「ぴったりじゃないですか?俺様キャラ。それにしても美怜。お前、ちょいちょいおかしなことしてたな」

急に話題が変わり、美怜は、はっ?と上ずった声で聞き返す。

「なあに?おかしなことって」
「まずはあれだよ。キキ、キングサイズベッド」

すると隣の成瀬が、ぶっと吹き出した。

「ちょ、卓!なによそれ?」

成瀬の様子をうかがいながら、美怜は慌てて卓を咎める。

「だってあからさまに赤くなって照れてただろ?キングベッドなんて普通に言えばいいのに、意識してますってバレバレ。聞いてるこっちが恥ずかしかったわ」

美怜は耳まで真っ赤になる。

「誰も意識なんてしてません!たまたまちょっと噛んじゃっただけでしょ?」
「それならあれは?ロマンチックなデートについて聞かれて、なにぶん経験不足でして申し訳ありません!って」
「き、聞いてたの?」
「うん。あんな面白い会話、聞き逃すもんか。それにお前、ご期待に沿えるようできる限りの努力をします!って。一体何をどう努力するんだよ?デートは努力と根性でできるもんじゃないぞ?」

必死に笑いをこらえていた成瀬が、限界だとばかりに笑い出した。

「ははは!そんな面白いこと話してたんだ。俺も聞きたかったな」
「とんでもない!本部長のお耳に入れるような内容ではございません」

美怜はそう言って卓を睨む。

卓はしれっとそっぽを向きながら、「それにしても無事に契約取れて良かったなー」と呟いていた。
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