恋とキスは背伸びして
疑似デート
「うーん、ロマンチックなデート…。恋人と過ごすお部屋」

頭の中で考えていたのだが、どうやら口に出していたらしい。

オフィスにいた先輩達が、一斉に美怜を見る。

「なに?どしたの?美怜。ついに彼氏でもできたの?」
「ち、違いますよ!ルミエールのリニューアルのことです」

サンドイッチを片手に、美怜は慌てて否定する。

ミュージアムの昼休み。
美怜達はそれぞれのデスクで昼食を取っていた。

「なーんだ。そういうことか」

身を乗り出していた先輩達は、また背もたれに身体を預ける

「あの、先輩方は彼と泊まるならどんなお部屋がいいですか?恋人と過ごす時間で、ロマンチックな瞬間ってありますか?」
「そうねえ。私はどんな部屋でも大して気にならないかな。彼氏と部屋ですることって言ったらもう、一つしか…」

佳代!と周りの先輩達が慌てふためく。

「ちょっと、美怜が鼻血出したらどうするのよ?!」
「ほんとよ。免疫のないお子ちゃまなのよ?美怜は」

すると佳代は開き直ったようにゆったりと皆を見渡す。

「あのね、美怜だってもう二十四なの。いつまでもお子ちゃまって訳にはいかない。免疫がないならそろそろ予防注射でも打たないとね」

どういう意味なの?と美沙が尋ねる。

「何事も経験よ。美怜、卓くんと疑似デートしてらっしゃい」
「は?!なんですか?疑似デートって」
「そのまんまよ。恋人同士のつもりで、王道のデートコースでも行ってらっしゃい。そうすればルミエールのアイデアも、二人で考えられるでしょ?」
「はあ、確かに」
「じゃあ、早速スマホ出して。卓くんに連絡しなさい」

ええー?と美怜が怯んでいると、いつの間にか周りの先輩達はおろか、課長までもが身を乗り出して成り行きを見守っている。

「えっと、じゃあ。仕事のアイデアを一緒に考えたいってことで」
「うんうん。口実は何でもいいから、ほら、早く」
「そんなに急かされると…」

戸惑いながらも、美怜は卓にメッセージを送った。

どうやら向こうも昼休みだったらしく、すぐに返事が来る。

そして早速次の休みに、二人で出かけることになった。
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