恋とキスは背伸びして
「やれやれ。やっとうるさいのがいなくなったな」

駐車場に車を停めると、成瀬は卓に「俺がアッシーならお前はメッシーだ」と言って、ランチをテイクアウトしてくるようにと言いつけた。

卓がブツブツ言いながらもお店を探しに行くと、成瀬はふうと息をついてから美怜と一緒に公園を散策する。

「うわー、秋なのにこんなにたくさんバラが咲いてるんですね。どれも素敵」
「そうだな。バラは横浜市の花だそうだ。それに昼夜の気温差で、春よりも秋の方が色濃く咲くらしい」
「そうなんですね。確かに色が鮮やかです。あ、この真っ白なバラも、とっても綺麗」

美怜は花に顔を寄せて、微笑みながら見つめている。

成瀬はふと思い立ち、ポケットからスマートフォンを取り出して写真を撮った。

「おお、我ながらなかなかよく撮れたな。ほら」

そう言って画面を美怜に見せる。

「ええ?私の顔がこんなにアップで…。恥ずかしいので削除してくださいね」
「どうして?自然な笑顔でバラを見つめてて、絵になる一枚だ」
「まさか、そんな!あの、本部長の腕前はお上手ですけど、私が写っているのは本当に恥ずかしいです。お願いですから消してください」
「えー、もったいない。じゃあ君に転送してから消すよ」
「あ、はい!お願いします」

あっさり頷く美怜に、成瀬は笑みをもらす。

「なんだ。実はいい写真だって思ってたんでしょ?」
「あ、えっと、はい。私はともかく、バラが綺麗に写っていて素敵だなって」
「いや、君が微笑んでるから余計にバラが美しく映えるんだよ。今日の記念に残しておいてくれると嬉しい」
「はい。大切に保存しておきます」

メッセージアプリのアカウントを交換し、成瀬は早速写真を転送する。

優しい表情で写真を見つめる美怜を見て、成瀬はまた思い立ち、メッセージを送った。

英語で書いた一節は、ある洋楽の一番の最後の歌詞。

美怜は少し驚いたようにメッセージを読むと、ふっと笑って何やら文字を打つ。

成瀬のスマートフォンがメッセージを受信し、それを読んだ成瀬も思わず頬を緩めた。

美怜が返してきた文章は、同じ歌の二番の最後の歌詞。

「知ってたの?『The Rose』」
「はい。大好きな歌です」
「俺もだ」

二人は見つめ合いながら微笑んだ。

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