恋とキスは背伸びして
コンベンションセンターに着くと、まずは顔見知りの館長達に挨拶に行く。

「突然お邪魔して申し訳ありません。ふいに思い立ってこちらのレストランで食事をさせていただこうと思いまして。その後いかがですか?」

卓の言葉に、館長達は嬉しそうな笑顔になる。

「いやー、イベントの主催者にもとても好評なんですよ。メゾンテールさんのおかげです。コーディネーターさんはセンスが良くて、いつも事前打ち合わせもしっかりしてくれますし。作業スタッフさん達も、気持ち良く挨拶して丁寧にセッティングしてくれます」
「そうでしたか。何かありましたらいつでもお知らせください」
「ええ。頼りにさせていただきます。これからお食事ですか?当レストランをご利用いただきありがとうございます。どうぞごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」

美怜と成瀬も頭を下げて、三人はフレンチレストランに向かった。

「おお、海が目の前!これは夜景も綺麗だろうな」
「本当ですね」

ガラス張りで高い天井の店内は内装も明るく、たっぷりと陽射しが射し込み、眼下に広がる海もキラキラと輝いている。

「今はテーブルクロスも真っ白ですけど、夜は濃紺のクロスに替えたらオシャレだろうなあ。照明も抑えてテーブルキャンドルを置いたり」
「あー、確かに。それいいな」

メニューよりも先にそんなことを考えてしまうのは、もはや職業病だろう。

三人は苦笑いしてから、ようやくメニューを開いた。

「俺は魚のコースにしようかな。富樫はお肉か?」
「はい!お肉大好きです!」
「だろうな。結城さんも?」
「えっと、私はお魚にします」

了解、と言って成瀬は三人分のオーダーを、ドリンクやデザートまでスマートに済ませる。

乾杯したあと何気なく店内を見渡すと、他のテーブルはほとんどがカップルだった。

「なんか最近俺達、この三人で行動すること多くないですか?」

卓が周りのカップルを見ながら言うと、成瀬もドリンクを片手に目をやる。

「仕方ないだろ?仕事なんだから。富樫も早く彼女作ってデートすればいいのに」
「それが俺、実はこう見えて猪突猛進型なんですよね」
「何を意外そうに言う。どう見ても猪突猛進型だが?」
「彼女できたら、仕事ほったらかしてぞっこんになっちゃうんです」
「やめろ。ルミエールの案件落ち着くまでは彼女作るな」

美怜がクスクス笑っていると、成瀬は申し訳なさそうに言う。

「すまん。女の子は女の子同士で話したいだろう?男の会話なんて、聞いててつまらないよね?」
「いいえ、楽しいし新鮮です。女性同士のおしゃべりとはまたちょっと違う面白さがあって」

すると卓が思い出したように話題を変えた。

「美怜。前にお前が俺のことを親友って言った時に、美沙先輩が言ってたセリフ覚えてる?」
「えっと、何だっけ?確か…、あ!異性の親友はあり得ないってこと?」
「そう。あれってなかなか奥深いなと思ってさ。成瀬さんはどう思います?」
「ああ、前にもそんなこと言ってたな。そうだなー、確かに奥深い」

三人はそれぞれ、うーんと考え込む。

「私は成立すると思う。だって現に卓は私の親友だもん。単なる友達よりも親しいし、何でも話せるから」
「それで言ったら俺も美怜は親友だな。ってことで、俺も成立する派だ。成瀬さんは?」

二人に視線を向けられて、成瀬は、ええー?と眉間にしわを寄せる。

「俺、女友達いないからなあ。今まで女の子って、最初から『つき合ってください』ってしか声かけられたことないし」
「ちょっと!何をサラッと武勇伝語ってるんですか?」
「いや、そんなんじゃないよ。だから富樫と結城さんの関係がうらやましい。恋愛感情がない分、お互いに信頼してるのがよく分かるから」
「ってことは、成瀬さんも異性の親友はあり得る派ですか?」
「んー、だったらいいなって願望かな?」
「なるほど」

それなら案外、美沙先輩は少数派か?と呟く卓に、美怜はちょっと考えてみる。

「それは私達が今フリーだからそう思うんじゃない?実際に誰かとつき合ってるカップルは違うかも。ほら、最初は仲のいい友達から恋人になったカップルだって多いだろうし」
「そうか、確かに。ちょっとインタビューしてこようかな」

そう言って本当に立ち上がろうとする卓を、美怜と成瀬は慌てて止めた。

「バカ!やめろ、富樫」
「そうよ、大迷惑よ。せっかくの二人の時間が台無しになっちゃう」
「でもなー、気になる」

その時タイミング良く料理が運ばれてきて、三人は美しい盛りつけに感激しながら美味しく味わった。
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