恋とキスは背伸びして
食べ終わると美怜は成瀬と一旦別れて部屋に戻り、荷物をまとめてロビーに下りる。

フロントでチェックアウトすると、「お代は結構です」と言われて戸惑った。

どうしよう?と迷っていると、成瀬が卓の腕を取りながらエレベーターから降りて来るのが見えた。

どうやらまだ寝ぼけているのか、卓の足取りはおぼつかない。

「本部長!」

美怜は慌てて近寄り、成瀬から卓を引きはがす。

「すみません、ご迷惑をおかけして。卓!ほら、しっかりして」
「うー、眠…」
 
美怜はすぐそばのソファに卓を座らせると、成瀬を振り返った。

「すみませんでした」
「いや、大丈夫だ。それよりカードキーくれる?」
「それが、先にチェックアウトしたんですけど、お代は結構ですって言われてしまって。どうしましょう?」
「あー、そうか。倉本さんは?フロントにいらっしゃった?」
「いえ、お見かけしていません」

分かった、と言うと成瀬はフロントに向かう。

何やらスタッフとやり取りすると、しばらくして戻って来た。

「支払いは固辞されてしまってね。倉本さんにお礼に一筆書いて、渡してもらうことにした。また後日、改めてお礼をしておくよ。じゃあ行こうか」
「はい。卓、ほら、行くよ?」

フラフラする卓を支えながら駐車場まで行くと、スポーツカーを目にした途端、卓はシャキン!と目を見開く。

「朝から拝めるとは、なんて素晴らしい日なんだ。グッドモーニング!」

やれやれと成瀬はため息をつく。

「結城さん、助手席へどうぞ。先にミュージアムまで送るよ」
「ありがとうございます。お願いいたします」

おかげで美怜は通勤電車で揉まれることもなく、いつもより早い時間にミュージアムに着くことができた。
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