恋とキスは背伸びして
「うわっ、これはすごい」
「圧巻ですね!」

巨大な倉庫に所狭しと並べられた家具やインテリア雑貨。

その間を歩きながら、美怜はタブレットを使って説明する。

「御社が手がけていらっしゃるコンベンションセンターは、多種多様な目的で利用されるとうかがいました。こういった大きな会場の場合、貸し出し用の備品の椅子やテーブルは、このようにオフィスにあるような簡易的なものが一般的かと思われます。御社は今回設計にもこだわって、他よりも数ランクアップした唯一無二のセンターを作られた訳ですから、内装や備品にもこだわってはいかがでしょうか?」

そう言って相手の様子をうかがうと、あまりピンと来ていないような雰囲気だった。

美怜は更に話を続ける。

「そこで弊社がご提案いたしますのは、必要な時に必要な備品だけをお貸しするサブスクリプション契約でございます。例えば国際会議や学術会議では、高級感溢れる洗練されたシックな雰囲気に。華やかな展示会や大規模パーティーの時には、明るくゴージャスな雰囲気に、など、椅子やテーブルはもちろん、装飾や照明、壁のカーテンなどもコーディネートいたします。面倒なセッティングや撤去作業も、全て弊社で請け負います。膨大な数の椅子や備品を保管する場所も必要ありません」

美怜が次々とタブレットに表示するバーチャル画像を、五人は食い入るように見つめる。

美怜は予め取り込んだコンベンションセンターの内部画像に、自社製品を使ったコーディネートのパターンをいくつか作っていた。

「ほう、同じ会場でもこんなに雰囲気が変わるんですね。壁のカーテンもいいなあ」
「はい。主催者の方に事前にしっかりヒアリングを行い、催しのテーマやイメージカラーなどを詳しくご相談させていただきます。弊社の製品は値段ごとにランクがあるのですが、サブスクリプション契約をしていただければ、どのランクの製品をご利用いただいても追加料金は発生しません。また、御社が主催者の方に、製品のランクに合わせた追加料金を請求していただいても、こちらは問題ありません」
「へえ、それは嬉しい」
「イベントの主催者側にとっても設営や備品の準備をせずに、細部までこだわったイベントが実現できる訳ですから、他ではなく、ぜひこの会場を使いたいと感じていただけるかと」

美怜の話を頷きながら聞いていた五人は、徐々に顔を寄せ合い小声で話し始めた。

恐らく契約を結ぶかどうか話し合っているのだろうと、美怜は少し離れた所にいる卓に目線を送る。

卓も真剣な顔で頷いた。

(どういう結論になるのかしら?)

必要な家具だけを買いつけるのと、大きなサブスクリプション契約を結ぶのとでは、金額の桁がかなり違ってくる。

そんなに簡単に受け入れられるとは思えない。

返事次第では、また新たなご提案をしなければ…と思っていると、結城さん、と年輩の男性に呼ばれた。

「はい」
「ご丁寧な案内をありがとう。君の話を聞いて、我々は是非とも御社とタッグを組みたいと意見がまとまったよ。サブスクリプション契約をお願いします」
「本当ですか?!」

思わず素に戻って喜んでしまう。

「ええ。これから長いおつき合いになります。どうぞよろしくお願いしますね」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いいたします。この度は誠にありがとうございます」

美怜は満面の笑みで、五人と握手を交わした。
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