恋とキスは背伸びして
「美怜、本部長とキスしたの?」

もはや呆然としながら尋ねる佳代に、美怜は慌てて手を振って否定する。

「違いますよ!高校の時の話です」
「ええ?!美怜、高校の時彼氏いたの?」
「はい。ほんの三ヶ月だけでしたけど」

うそー!知らなかったー!と先輩達は驚くが、その反応に美怜の方が驚いた。

「どうしてですか?私、彼氏いたことないって言いましたっけ?」
「いや、そう言われればそうだけど。なんか思い込んじゃって。でも美怜から、彼氏がいたって話も聞いたことないよね?」

うんうん、と先輩同士で頷いている。

「なんだか想像つかないな。だって美怜なら、一度誰かを好きになったらずっと想い続けそうだもん。三ヶ月で別れたなんて、本当に?」
「はい。そもそも相手のことを好きだった訳ではないんです。告白されて断わったんですが、しばらくつき合ってみてそれから返事してって押し切られて」
「なるほど。それで三ヶ月つき合ってみてから別れたのね…って、待って!じゃあ、なんでキスしたの?」

それが…と、美怜は視線を落とす。

「つき合って三ヶ月経った頃、文化祭があったんです。後夜祭で盛り上がって、クラスみんなで打ち上げをした時、彼が友達にからかわれて。お前達ほんとにつき合ってるのか?もうキスしたのか?って。それで彼がムキになって、みんなの前でいきなり私に…」

ああ…と、先輩達も一斉に視線を落とした。

「てんとう虫のサンバか…」
「佳代、それ古いから。美怜きっと知らない」
「そんなこと、本当にあるんだね。それで美怜、すぐにその彼に別れを切り出したの?」

美怜はコクンと頷く。

「もう、なんて言うか、生理的に受けつけなくなってしまって。それがきっかけで、誰かとつき合うのも避けるようになってしまいました」

そっか、と佳代は小さく呟く。

「美怜。その時美怜が傷ついた気持ちはよく分かる。ファーストキスをそんなふうに奪われたらトラウマになるよね。でもね、美怜。あなたには幸せになって欲しい。いつか素敵な人を好きになって、その人に大切にしてもらって。私達みんな、美怜の幸せを願ってるから」
「先輩…」

美怜の目から思いがけずポロポロと涙がこぼれ落ちる。

「辛かったね、美怜。大丈夫。いつかきっと幸せになれるからね」

佳代に頭をなでられ、先輩達に背中をさすられながら、美怜は涙をこらえて頷いた。
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