恋とキスは背伸びして
クリスマスがやって来た。
美怜はいつも通りミュージアムでの案内を終えると、クリスマスの飾りの片づけは先輩達に任せて本社へ向かう。
本部長の執務室で卓と成瀬と落ち合うことになっていた。
コンコンと執務室のドアをノックすると、「どうぞ」と成瀬の声がする。
失礼いたしますと中に入ると、またもや秘書課の人らしい、すらりとしたスーツの女性が成瀬の隣に立っていた。
「年末までのスケジュールと年始のスケジュールがこちらです。パーティーや懇親会、忘年会や新年会も目白押しですので、お忙しくなると思いますがよろしくお願いいたします」
「分かりました。ありがとうございます」
「それでは、これで」
優雅にお辞儀をして歩き出そうとした女性は、思い出したように足を止めた。
「本部長、よろしければこちらを。メリークリスマス」
え?と成瀬は差し出された四角い箱を見つめる。
「ささやかなプレゼントですわ。でもご迷惑でしたら…」
そう言って女性が手を引くと、成瀬は慌てて手を伸ばした。
「いや、受け取らせていただくよ。ありがとう。すまない、私は何も用意していなくて」
「お気になさらず。それでは」
女性はもう一度会釈してから、綺麗な姿勢で部屋を横切って退室していった。
成瀬が、受け取ったプレゼントをデスクにしまうのを、美怜はぼんやりと眺める。
(あれって高級ブランドのパッケージよね?どうしよう。渡すのやめようかな)
卓と成瀬に渡そうと、美怜もちょっとしたクリスマスプレゼントを用意していた。
だがもちろん高級ブランドの物ではないし、先程の女性が贈ったプレゼントに比べれば子どもっぽいと思われるのは間違いない。
(そっか。本部長にはさっきみたいな大人の女性がお似合いよね。なんて言うか、スマートで知的で、立ち居振る舞いも余裕があって美しくて。ホテルのバーに並んで座って、お酒とか飲んでるお二人が目に浮かぶ。映画のワンシーンみたいな)
それに引き替え、と美怜は自分の格好を見下ろす。
いつものリクルートスーツは、入社式から成長していないことの表れのようだった。
(私も大人っぽいスーツとピンヒール買おうかな。でも似合わなくて、逆に痛々しいかも)
うつむいて考え込んでいると、結城さん?と声がした。
「どうかしたか?」
デスクから心配そうに成瀬が声をかけてくる。
「いえ!何でもありません」
「本当に?」
「はい、本当に何でもありません」
まだ何か言いたそうに成瀬が口を開こうとした時、ノックの音がして卓の声がした。
「富樫です!失礼しまーす!メリークリスマース!」
成瀬は入って来た卓にぷっと吹き出す。
「富樫。お前、悩みとかないのか?」
「ありまーす!」
「それでそんなに陽気なのか?」
「だって今夜もまたあの車に乗れるからでーす!」
はあ、と成瀬は盛大なため息をついた。
美怜はいつも通りミュージアムでの案内を終えると、クリスマスの飾りの片づけは先輩達に任せて本社へ向かう。
本部長の執務室で卓と成瀬と落ち合うことになっていた。
コンコンと執務室のドアをノックすると、「どうぞ」と成瀬の声がする。
失礼いたしますと中に入ると、またもや秘書課の人らしい、すらりとしたスーツの女性が成瀬の隣に立っていた。
「年末までのスケジュールと年始のスケジュールがこちらです。パーティーや懇親会、忘年会や新年会も目白押しですので、お忙しくなると思いますがよろしくお願いいたします」
「分かりました。ありがとうございます」
「それでは、これで」
優雅にお辞儀をして歩き出そうとした女性は、思い出したように足を止めた。
「本部長、よろしければこちらを。メリークリスマス」
え?と成瀬は差し出された四角い箱を見つめる。
「ささやかなプレゼントですわ。でもご迷惑でしたら…」
そう言って女性が手を引くと、成瀬は慌てて手を伸ばした。
「いや、受け取らせていただくよ。ありがとう。すまない、私は何も用意していなくて」
「お気になさらず。それでは」
女性はもう一度会釈してから、綺麗な姿勢で部屋を横切って退室していった。
成瀬が、受け取ったプレゼントをデスクにしまうのを、美怜はぼんやりと眺める。
(あれって高級ブランドのパッケージよね?どうしよう。渡すのやめようかな)
卓と成瀬に渡そうと、美怜もちょっとしたクリスマスプレゼントを用意していた。
だがもちろん高級ブランドの物ではないし、先程の女性が贈ったプレゼントに比べれば子どもっぽいと思われるのは間違いない。
(そっか。本部長にはさっきみたいな大人の女性がお似合いよね。なんて言うか、スマートで知的で、立ち居振る舞いも余裕があって美しくて。ホテルのバーに並んで座って、お酒とか飲んでるお二人が目に浮かぶ。映画のワンシーンみたいな)
それに引き替え、と美怜は自分の格好を見下ろす。
いつものリクルートスーツは、入社式から成長していないことの表れのようだった。
(私も大人っぽいスーツとピンヒール買おうかな。でも似合わなくて、逆に痛々しいかも)
うつむいて考え込んでいると、結城さん?と声がした。
「どうかしたか?」
デスクから心配そうに成瀬が声をかけてくる。
「いえ!何でもありません」
「本当に?」
「はい、本当に何でもありません」
まだ何か言いたそうに成瀬が口を開こうとした時、ノックの音がして卓の声がした。
「富樫です!失礼しまーす!メリークリスマース!」
成瀬は入って来た卓にぷっと吹き出す。
「富樫。お前、悩みとかないのか?」
「ありまーす!」
「それでそんなに陽気なのか?」
「だって今夜もまたあの車に乗れるからでーす!」
はあ、と成瀬は盛大なため息をついた。