恋とキスは背伸びして
「ありがとな、美怜」

ミュージアムの出口でお客様に挨拶した美怜に、卓がそっと耳元でささやく。

「ううん。卓もお疲れ様」

小声で返事をすると卓は小さく頷き、お客様と一緒にミュージアムをあとにする。

美怜はその姿が見えなくなるまで、深々とお辞儀をして見送った。

あとは卓が先方に詳しい契約内容の説明をして、契約書の作成をするはずだ。

自分の役目は終わったと、美怜はホッと胸をなで下ろす。

オフィスに戻ると、入江課長や先輩の相田達がデスクで昼食を取っていた。

「あ、美怜!お疲れ様。ランチ行ってきなよ」
「はい。じゃあ、お言葉に甘えて。電話番お願いします」
「オッケー。今日、いつものカフェの日替わりランチ、美怜の好きなラザニアだよー」
「え、ほんとに?!やったー!行ってきまーす」

薄手のロングカーディガンを羽織り、財布とスマートフォンを入れた小さなバッグを手にすると、課長が声をかけてきた。

「結城さん、成瀬くんも連れて行ってあげたら?」
「はっ?」

美怜は、課長の視線を追って後ろを振り返る。

(そうだった!今日は見学の社員さんがいるんだった)

案内に集中していたせいか、いつの間にかその存在をすっかり忘れていた。

「すみません!」

思わず謝ると、ランチを断ったと誤解されたらしい。

「いや、気にしないで。よく知らない相手とランチなんて、嫌だよね」
「え?いえ!あの、そういう意味ではなくて…」

焦って手を振りながら否定していると、またもや課長の声がした。

「結城さん、いいよね?成瀬くん、おごってくれると思うよ」
「はい!あ、いえ。あの、そうではなくて」

ますますややこしくなり、美怜はドギマギと頭を下げる。

「あの、よろしければご一緒してください。もちろんランチ代は自分で払いますので」
「ではご馳走させてもらってもいいかな?」
「いえ!そういう訳には…」

「結城さーん。早く行かないとラザニア売り切れちゃうよー」

課長の言葉に、美怜はハッとする。

「ではまいりましょう!」
「ああ、分かった」

二人は「行ってらっしゃーい」と課長達に見送られ、ミュージアムから徒歩五分程のオープンテラスのカフェに向かった。
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