恋とキスは背伸びして
「いやー、こんな日まですみません」
出迎えてくれた倉本は、恐縮して三人に頭を下げる。
「いいえ、どうぞお気遣いなく。本日もよろしくお願いいたします」
挨拶を済ませると、早速トラックでやって来た作業スタッフと合流して飾りつけを始めた。
既にホテル側が門松やしめ飾り、鏡餅などを用意している為、美怜はそれに合う背景や小物、紅白の幕などを用意してきた。
フォトスポットには鮮やかな扇や手毬を並べ、それを自由に手に取って撮影できるよう、SNS用の撮影パネルも設置する。
宴会場では獅子舞が舞うイベントや書道パフォーマンス、縁日などが開かれるらしく、その装飾にも取りかかった。
昼過ぎから始めた作業は、夕方の五時に無事終了する。
「以上で本日の作業は全て終了です。次回は一月八日にお正月飾りの撤収と、その翌週からいよいよ客室のリニューアルに着手いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
美怜が倉本に説明すると、倉本も丁寧にお辞儀した。
「ありがとうございました。お三方には大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ大変お世話になり、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします」
互いに年末の挨拶を述べて、三人は倉本と別れた。
「やっと終わったー!これでようやく仕事納めー!」
駐車場に向かいながら、卓が両手を上げて伸びをする。
「美怜、正月は山梨の実家に帰るのか?」
「うん。今日はもう遅いから、明日移動しようと思ってるの」
「じゃあ今夜は一人で年越し?」
「まあ、そうなるね」
すると二人の前を歩いていた成瀬が振り返った。
「すまない。大みそかまで仕事をさせてしまったばかりに」
いえ!と慌てて美怜は首を横に振る。
「お仕事ですから当然です。それにお正月の飾りつけも、とても楽しかったですし。初詣には着物を着て行こうかなって気分になりました」
取り繕うように饒舌になってしまう。
今日は一度も成瀬と目を合わせていない。
常に卓の近くにいるように意識した為、成瀬と二人で会話することもなかった。
(きちんと謝らなきゃ。でもなんて?それに本部長は蒸し返したくないのかも。このまま時間と共にだんだん以前のように戻ればいいって思ってらっしゃるとしたら。ううん、それでもやっぱり謝らなきゃ。なんて言えば本部長に伝わるかな。どうすれば本部長は許してくださる?)
美怜は頭の中で同じことをグルグルと何度も考える。
すると成瀬が立ち止まって二人を振り返った。
「また貴重な時間を奪って恐縮なんだが、よかったら夕食をごちそうさせてくれないか?」
え?!と美怜と卓も立ち止まる。
「いいんですか?成瀬さん」
「ああ。行きつけの旨いお寿司をごちそうするよ」
やったー!高級お寿司ー!と、卓は両手を上げて天井を仰ぐ。
「なんて贅沢な一年の締めくくり。成瀬さん、ありがとうございます!」
「ははは。たらふく食べそうだな、富樫」
「いいんですか?たらふく食べて」
「もちろん。結城さんも、いいかな?」
視線を向けられて、美怜はシャキッと背筋を伸ばす。
「は、はい!よろしくお願いいたします」
「ああ。じゃあ、行こう」
再び成瀬が歩き出すと、美怜は片手を胸に当てて、ふう、と大きく息を吐いた。
出迎えてくれた倉本は、恐縮して三人に頭を下げる。
「いいえ、どうぞお気遣いなく。本日もよろしくお願いいたします」
挨拶を済ませると、早速トラックでやって来た作業スタッフと合流して飾りつけを始めた。
既にホテル側が門松やしめ飾り、鏡餅などを用意している為、美怜はそれに合う背景や小物、紅白の幕などを用意してきた。
フォトスポットには鮮やかな扇や手毬を並べ、それを自由に手に取って撮影できるよう、SNS用の撮影パネルも設置する。
宴会場では獅子舞が舞うイベントや書道パフォーマンス、縁日などが開かれるらしく、その装飾にも取りかかった。
昼過ぎから始めた作業は、夕方の五時に無事終了する。
「以上で本日の作業は全て終了です。次回は一月八日にお正月飾りの撤収と、その翌週からいよいよ客室のリニューアルに着手いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
美怜が倉本に説明すると、倉本も丁寧にお辞儀した。
「ありがとうございました。お三方には大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ大変お世話になり、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします」
互いに年末の挨拶を述べて、三人は倉本と別れた。
「やっと終わったー!これでようやく仕事納めー!」
駐車場に向かいながら、卓が両手を上げて伸びをする。
「美怜、正月は山梨の実家に帰るのか?」
「うん。今日はもう遅いから、明日移動しようと思ってるの」
「じゃあ今夜は一人で年越し?」
「まあ、そうなるね」
すると二人の前を歩いていた成瀬が振り返った。
「すまない。大みそかまで仕事をさせてしまったばかりに」
いえ!と慌てて美怜は首を横に振る。
「お仕事ですから当然です。それにお正月の飾りつけも、とても楽しかったですし。初詣には着物を着て行こうかなって気分になりました」
取り繕うように饒舌になってしまう。
今日は一度も成瀬と目を合わせていない。
常に卓の近くにいるように意識した為、成瀬と二人で会話することもなかった。
(きちんと謝らなきゃ。でもなんて?それに本部長は蒸し返したくないのかも。このまま時間と共にだんだん以前のように戻ればいいって思ってらっしゃるとしたら。ううん、それでもやっぱり謝らなきゃ。なんて言えば本部長に伝わるかな。どうすれば本部長は許してくださる?)
美怜は頭の中で同じことをグルグルと何度も考える。
すると成瀬が立ち止まって二人を振り返った。
「また貴重な時間を奪って恐縮なんだが、よかったら夕食をごちそうさせてくれないか?」
え?!と美怜と卓も立ち止まる。
「いいんですか?成瀬さん」
「ああ。行きつけの旨いお寿司をごちそうするよ」
やったー!高級お寿司ー!と、卓は両手を上げて天井を仰ぐ。
「なんて贅沢な一年の締めくくり。成瀬さん、ありがとうございます!」
「ははは。たらふく食べそうだな、富樫」
「いいんですか?たらふく食べて」
「もちろん。結城さんも、いいかな?」
視線を向けられて、美怜はシャキッと背筋を伸ばす。
「は、はい!よろしくお願いいたします」
「ああ。じゃあ、行こう」
再び成瀬が歩き出すと、美怜は片手を胸に当てて、ふう、と大きく息を吐いた。