恋とキスは背伸びして
卓がお手洗いに席を立つと、成瀬が声を潜めて美怜に話しかけてきた。
「大丈夫?ひょっとして大将にナンパされてた?」
美怜は思わず口元を押さえて笑う。
「まさかそんな。楽しくお話してくださっただけです」
「そう?それならいいけど。あの大将、いつもはお堅い職人気質なんだ。あんなにニコニコしてるなんて、初めてだよ。俺、振り返って二度見したもん」
大将の様子がよほど珍しかったのか、美怜と気まずくなっていることも忘れたように、成瀬はしきりに首をひねりながら話しかけてくる。
「何の話をしてたの?なんだか盛り上がってたけど」
「お寿司がとても美味しいですってことを」
「それだけ?それであのカタブツ大将がニコニコ大将になるかな。やっぱり口説かれたんじゃない?」
「違いますよ。本当にお寿司の話だけです」
そう?と、成瀬はまだ納得いかない素振りをしていたが、ふと思い出したようにジャケットの内ポケットに手を入れた。
「はい、これ。遅くなったけど誕生日プレゼント。受け取ってくれたら嬉しい」
差し出された小さな四角い包みに、えっ!と美怜は言葉を失う。
クリスマスの夜に成瀬の気分を害してしまい、雰囲気が悪くなったことを思い出した。
だが今目の前にいる成瀬は、ただ真っ直ぐに自分を見つめ、プレゼントを差し出してくれている。
それなら自分も素直になるだけだと、美怜は両手を伸ばして受け取った。
「ありがとうございます」
「喜んでもらえる自信はないけど」
「いえ、お気持ちがとても嬉しいです」
「良かった、受け取ってもらえて。あの、もし嫌じゃなければ、なんだけど…」
「はい、何でしょう?」
うん、その…と成瀬は少し言い淀む。
「クリスマスプレゼントを交換してもいいかな?」
「え?プレゼントの交換、ですか?クリスマスって、この間の?」
「ああ。遅くなった上に、明日はお正月だけど。年明けに会う日に渡したい。それで、もし君がまだ捨てていなければ…。あの時のプレゼントを受け取ってもいいかな?」
「あの時の…」
それはクリスマスの夜、美怜の部屋でカバンから滑り出たプレゼントのことだろう。
「それとももう捨ててしまったかな?」
成瀬が控えめに聞いてくる。
「いいえ。うちに置いてあります」
「そうか。じゃあ、受け取ってもいいかな?」
「はい、お渡しします。大したものではなくて恐縮ですけど」
「とんでもない。楽しみにしている」
その時、卓が席に戻って来て、そろそろお愛想を…と成瀬が大将に声をかけた。
クレジットカードを渡す成瀬に、「ありがとうございます。ごちそうさまでした」と、卓と美怜は頭を下げる。
「どういたしまして。二人にはいつも感謝している。今日も大みそかなのに、ありがとう」
大将にも「ごちそうさまでした」と挨拶して店をあとにすると、大将が見送りに出て来た。
「お嬢様、今夜はありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」
美怜にだけニコニコと笑顔を向ける大将に、「ねえ、本当に口説かれてない?」と、成瀬は車に乗ったあとも何度も美怜に確かめていた。
「大丈夫?ひょっとして大将にナンパされてた?」
美怜は思わず口元を押さえて笑う。
「まさかそんな。楽しくお話してくださっただけです」
「そう?それならいいけど。あの大将、いつもはお堅い職人気質なんだ。あんなにニコニコしてるなんて、初めてだよ。俺、振り返って二度見したもん」
大将の様子がよほど珍しかったのか、美怜と気まずくなっていることも忘れたように、成瀬はしきりに首をひねりながら話しかけてくる。
「何の話をしてたの?なんだか盛り上がってたけど」
「お寿司がとても美味しいですってことを」
「それだけ?それであのカタブツ大将がニコニコ大将になるかな。やっぱり口説かれたんじゃない?」
「違いますよ。本当にお寿司の話だけです」
そう?と、成瀬はまだ納得いかない素振りをしていたが、ふと思い出したようにジャケットの内ポケットに手を入れた。
「はい、これ。遅くなったけど誕生日プレゼント。受け取ってくれたら嬉しい」
差し出された小さな四角い包みに、えっ!と美怜は言葉を失う。
クリスマスの夜に成瀬の気分を害してしまい、雰囲気が悪くなったことを思い出した。
だが今目の前にいる成瀬は、ただ真っ直ぐに自分を見つめ、プレゼントを差し出してくれている。
それなら自分も素直になるだけだと、美怜は両手を伸ばして受け取った。
「ありがとうございます」
「喜んでもらえる自信はないけど」
「いえ、お気持ちがとても嬉しいです」
「良かった、受け取ってもらえて。あの、もし嫌じゃなければ、なんだけど…」
「はい、何でしょう?」
うん、その…と成瀬は少し言い淀む。
「クリスマスプレゼントを交換してもいいかな?」
「え?プレゼントの交換、ですか?クリスマスって、この間の?」
「ああ。遅くなった上に、明日はお正月だけど。年明けに会う日に渡したい。それで、もし君がまだ捨てていなければ…。あの時のプレゼントを受け取ってもいいかな?」
「あの時の…」
それはクリスマスの夜、美怜の部屋でカバンから滑り出たプレゼントのことだろう。
「それとももう捨ててしまったかな?」
成瀬が控えめに聞いてくる。
「いいえ。うちに置いてあります」
「そうか。じゃあ、受け取ってもいいかな?」
「はい、お渡しします。大したものではなくて恐縮ですけど」
「とんでもない。楽しみにしている」
その時、卓が席に戻って来て、そろそろお愛想を…と成瀬が大将に声をかけた。
クレジットカードを渡す成瀬に、「ありがとうございます。ごちそうさまでした」と、卓と美怜は頭を下げる。
「どういたしまして。二人にはいつも感謝している。今日も大みそかなのに、ありがとう」
大将にも「ごちそうさまでした」と挨拶して店をあとにすると、大将が見送りに出て来た。
「お嬢様、今夜はありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」
美怜にだけニコニコと笑顔を向ける大将に、「ねえ、本当に口説かれてない?」と、成瀬は車に乗ったあとも何度も美怜に確かめていた。