エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
無意識のうちに抱いてしまった、彼女にはちょっと失礼な疑念を食事の品が運ばれてくるまでの間、私は捨てきれずにいた。
だけど、実際に料理を食べ始めてからの彼女は至って普通で、父との馴れ初めや子供が生まれた後のことなど、私の尋ねた質問にも嫌な顔せず自然な笑顔で受け答えしてくれる。
見た目は少し強情そうな感じはあるけれど、ちゃんとしてる人ってだけなのかもしれない。
母を失って以来、無計画にぼんやりと生きてきたであろう父には、こういう物事をはっきり判断して行動に移せる強気な女性が合っていたのかも。
私が最初に感じてしまったややマイナスな彼女への印象が少しずつ緩和されるのを感じながら、和やかな雰囲気で食事会は進んで行き――
父がお手洗いにと席を立ったそのタイミングで、向かいに座る彼女が口を開いた。
「ところで」
「?」
「未來さん、今日付でお仕事を退職なさったそうだけど」
唐突に発せられたその言葉に、思わず身がたじろぐ。
このタイミングで切り出されるとは思わず、私は情けないくらいの動揺を表情に出して狼狽えてしまった。
「あらごめんなさいね。悪気はないのよ。ただ、その影響で今年中には住んでいたお住まいもなくなってしまうのでしょう?」
私の反応を見た彼女――篤子さんは、わずかに口角を上げて、父さんと二人で飲み交わしていた日本酒のお猪口を手に、私に問う。
「ええ、まあ……。なので当面は――」
すでに父にもアプリ経由で送っておいたあの内容を、改めて口にしようとしたその時。
「ねぇ、未來さん?申し訳ないのだけども、その次の滞在先にうち――あなたのご実家を選ぶというのなら、それは考え直していただけないかしら?」
私が言葉を言い終える前に、被せるようにして篤子さんははっきりとそう言った。