エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
そんな私の顔を見て、「ん?」彼は一瞬だけ怪訝に眉を動かしかけたものの、すぐににっこり笑顔を貼り付けて問う。
「えっと、お知り合いにでも似てました?」
「あっ……と、いえ、すみません。勘違いでした」
今声をかけてきた彼は間違いなく、昨日路地裏で、人妻らしきご婦人と濃厚でみだらな行為に耽っていたあの男の人だった。
だけど、なんとなくその時の話をここで持ち出すのは気が引けて、とりあえず知らない振りを装う。
そもそも向こうは私に気付いていなかったわけだし、何で覗いてたのかなんてことを突っ込まれでもしたら余計に面倒臭い。
私だって好きで覗いてたわけじゃないけどね!
とにかくここは、他人のフリ他人のフリ!(はなから他人だけど!)
「そ?それじゃ改めて訊くけど、家探し中?今なら席空いてるから、詳しく話聞こうか?」
「えっと……」
彼のあまりの美形ぶりに目線を合わせられずたじろいでいると、それに気付いた彼がさらに一歩距離を詰めてきて、私の顔を覗き込んでくる。
「ここじゃ寒いし、お客さんに風邪でもひかれたら大変だからさ。俺のためだと思って、中どうぞ?お話だけでも」
「あ……ハイ……」
いやぁ、イケメンっていうのは実に恐ろしい生き物だ。
あんないやらしいシーンを実践していた張本人だというのに、こうして優しく微笑みかけられると勝手に体が頷いてしまう。
まぁ……家探ししているのは本当のことだし。
それに、プライベートをどう過ごそうが彼の自由だ。それはそれ、これはこれということで……。
結局、上手い断り方も見つからなかった私は、言われるがままに彼に従い、店内へと足を踏み入れてしまった。