エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
「お前、家ねぇんだっけ?」
「はい?」
そこで突然話題が切り替わり、私はあまりの急激な方向転換についていけず眉をひそめた。
「3日後に退去なんだろ?荷物の整理とか済んでんの?」
「それは……まあ、少しくらいは。昨日退職だったから、この週末で残りも片付けるつもりで」
実家に送るものとか、処分するものとか、色々整理するために動いてはいたけど。
その計画も昨日の篤子さんのあの発言により、全て無に帰した。
まずは行く当てを探す以外に、どうしようもないと思ったから今私はここにいるわけだ。
「だ、だから、とにかくどこでもいいから家が欲しいんです。どうにかなりませんか……」
結局こうして、今の今まで青筋を立てていた相手に、救いの手を求めてしまっている自分のことはもう笑うしかない。
だって、今の私がこのまま他の業者を頼っても取り合ってすらもらえないのでしょう……?
脅迫するつもりはなかったけど、これも何かの縁だ。いや、縁でもないけど。
私は縋るような眼差しで、向かいの彼に視線を這わせる。
「まぁ、現状空室の部屋はいくらでもあるし、駅徒歩20分、風呂なしの築うん十年とかの物件でもよければ、お前みたいな貧乏人でも暮らしていける部屋はあるだろうよ。だがな、お前は仕事から住居から、何から何まですでに手元にあるべきものが無さすぎるんだよ」
「う……」
ま、まだ家は一応あるんだけど。(3日間だけだけど)
あと少なくとも父さんから返してもらった50万は手元にあるし。
なんて思ったけど、逢崎さんの目が怖すぎて、それ以上の言葉を口に出せる気がしない。
「だが。俺はこう見えて優しいんだよ。お前が昨日見たその一部始終を綺麗さっぱり記憶から抹消するってんなら、ひとつ提案してやるよ」
「……!わ、忘れます。今忘れました。綺麗な若奥様のつやつやロングヘアはもう記憶にございません!」
「……」
睨み合っていた数分前とは打って変わり、急にしおらしくなった調子の良い私を見て、逢崎さんはまたも鬱陶しそうに目を細める。