エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
「んなら、お前が俺の家に当面住むための正当な条件を出してやるよ」
私が決断しあぐねていると、それを見た向かいの逢崎さんは口元を緩ませたまま言葉を放つ。
「?」
「お前、寮暮らしっつー話だけど、家事はどうしてた?」
「それは全員各々でやってたよ。寮とはいっても学生とは違うんだし、普通の一人暮らしと変わらないもの」
「だろうな。ということは一通りは一人で全部こなせるわけだ」
そこまで彼が口にしたところで、私も凡その察しがつく。
なるほど、家賃を払わない代わりに家事全般の代行業務を請け負えということか。
「それくらいは別に、もちろん滞在させてもらえるのなら進んでやりますけど」
そうだとしても、家賃と生活費の相当額にはとても足りない気がする。
それだけじゃ流石に、と言いかけたところで、先に口を開いたのは逢崎さんだった。
「ああ、炊事洗濯掃除、その他諸々の家に関わる雑務は全部お前がやれ。あとついでに、お前、俺の女になれよ」
「……」
――――はい!?
ちょっと待って。前半はともかく、後半は一体どういう了見だ。
私は顔全体に“疑念”を張り巡らせた状態で、半ば軽蔑の念すら交えて問い返す。
「意味がわかりません」
「意味がわからないはやべぇだろ。お前、正真正銘の馬鹿か」
「そういう意味じゃない!」
「あーうるせぇ叫ぶな。言った通りの意味だよ。俺の家に滞在している間の一定期間、俺の彼女のフリをしてくれればそれでいい。昨日お前が見たっていう人妻が、最近俺にガチになってきてそろそろ鬱陶しいんだよ」
はぁ。
そんなしょうもない理由に私を巻き込むな!!
と言いたいところだが、確かに家事代行だけで済ませるには対価としてはあまりにも安すぎて気が引けるのも事実だ。
私は逢崎さんの軽薄すぎるその言動を一方的になじるのを思いとどまる代わりに、悪びれもせずに頭に手をやる彼にただ黙って白い目線を向けた。
無駄に顔が良いヤツってのはこれだから――
どれだけ見目麗しい容姿をしていても、仕事は真面目にこなしていても、こういうところがいただけない。