エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠


――ねぇ、紫苑って、他に好きな人とかいないの?


先ほど私が言いかけた質問をもう一度投げてみようかとも思ったのだけど、なんとなく今じゃない気がしてそれも憚られる。

まぁ、いたら私に彼女役なんて頼まないだろうし普通に考えればいないんだろうけど、こんなに眉目秀麗だから、それはそれでちょっともったいない気がしないでもない。


それに、私だって。

彼にさっき指摘された通り、ここ1,2年ほどは浮いた話などほとんどなかったも同然だが、それでも過去には彼氏のひとりやふたりくらいはできたことはある。


けれど――


実は私、お付き合いの経験はあっても、そういう男女の営み的な……そういった行為の経験はあまりなくて。


要するに、処女なんだよね。

29歳にして処女。


いや、高校生の頃に付き合った彼氏とは、そういう関係になりかけたこともあった。

だけどどうしても私が臆病で、彼を受け入れることができなくて。


――面倒臭いって言われて、フラれちゃった。


そのトラウマが拭えなくて、以降にも何人かとお付き合いすることはあっても、どうしても体の関係まで進展できないまま、だらだらと時間を無為に過ごしている間に気付けば、冴えないおひとり様よろしく残念アラサーとなり果ててしまった。


だから正直、紫苑に見抜かれた通り、あんまり色事に慣れてもないし、彼女のフリなんて言われてもいまいち何をするのが正解なのかわからない。

あくまで形だけで、実際に彼女になるわけではないのだから、大丈夫だとは思うんだけど。


どうせ例の奥様との関係を清算させる口実にでもするつもりなんでしょうし。

って、それはそれでなんか怖いんだけどな。私、刺されたりしないよね……?


そうこう考えているうちに視界には、土日ということで一段と人で溢れかえった新宿駅が見えて来た。

そのまま改札へ向かうのかと思って、紫苑とともに人混みを抜け歩いて行くと――


――あれ!?

紫苑さん?改札、通り過ぎましたけど??

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