エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠


「それではまた後ほど」


コンシェルジュとの会話を済ませると、紫苑が居住者用のエレベーターホールへ向かって歩き出したので、私も小さく会釈をしてから彼の背中を小走りで追った。


ホールに入る前には入居者と許可されたゲストのみが入場できるセキュリティゲートが設置されていて、紫苑は自分が入場するときに一度カードキーをタッチしてからそれをオープンさせた。

ちなみにゲストのみの入場の際は、コンシェルジュが受付時に操作してくれるらしい。(さっきの外部ゲストがそうしていた)


その後エレベーターが1階に着くと、上階から乗ってきたらしい住人が上品に頭を下げてから私の前を通り過ぎていく。


ああ。やっぱりこういう格式高いマンションに住まう人たちだからか、どの人も品性があってどことなく位が高い感じがする。あと、清潔感のある良いにおいもした。

当然ながら身だしなみもちゃんとしていて、安っぽい服を着ている人なんてひとりもいない。


「おい、早く乗れ」

「あ、はいっ」


私が呆然と場の空気に呑まれている間に、いつの間にかそのエレベーターに乗り込んでいた紫苑が、開ボタンを押しながら細い目をして私を待っている。

私が慌てて中に入ると、そのエレベーターの扉が閉まり、それはぐんぐんと急速に上階へ上って行った。


――♪


50階に到着し外へ出ると、もうそれは見るからに最高級ホテルのワンフロアさながらの造りをしていて。

明らかに場違いな雰囲気を肌で感じながらも、すたすたと先を歩いて行く紫苑を追いかける。


A5001――


角部屋と言っていただけあり、一番端まで歩いた先のドアの前で、彼が立ち止まった。

ハンドル上の指紋認証ポイントに自分の親指を押し当て、続けて少しだけ屈んだ高さにある顔認証モニタに目線を合わせると、ガチャリと中からロックが解除される機械音が聞こえた。


黒くて高級感のあるシックな玄関ドアを開けて、私へと振り返った紫苑が「どうぞー」さらりと中へ入るように促すので、私は言われたままに中へ足を踏み入れる。


ピカピカとした、まるでモデルルームのような室内は、今まで訪れたどんな部屋よりもリッチでハイランクな感じがして、私なんかが訪れて良い場所とは到底思えずになんだか眩暈がしてきた。


私、なんて人に付いてきちゃったんだろう……。

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