エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
「16時まであと40分ってとこか。家に段ボールの余りとかってある?」
上着を脱ぎながら1DKの室内をぐるりと目線で見渡した紫苑に、「ちょっとならあるけど」ゴミ出し用に束ねていた段ボールを見せる。
「じゃあそれ使ってあんまり他人に触られたくないものとかそういうのは自分で荷造りして。16時から来る業者には荷造り込みのパックで頼んであるから基本は業者がやってくれるし、任せていいものは触らなくていいから」
「そうだったんだ。何から何まで……」
「礼はいいからさっさと手を動かす」
「ハイ」
私は紫苑がソファに掛けたアウターを手に取り、自分が着ていたブルゾンと一緒にそれらをハンガーに掛けた。
すでに畳んでしまっていた段ボールをもう一度広げてガムテープで固定し、大事なものだけを丁寧に詰めていく。
「ここの家具家電って備え付け?」
「天井の照明と家電と……あとダイニングのテーブルはそうだけど、洋室の家具は自分のだよ。カーテンも持ち込み」
「了解」
紫苑は私の返答を聞くと、いつの間にやら持ってきたらしいメジャーを取り出して長さを測ってから、カーテンレールからカーテンを取り外していく。
「悪いけど、うちの洋室の長さと合ってねぇからこのカーテンはもう使えねぇわ」
「それは別に全然いいけど。それにすでに使ってるカーテンあるでしょ?っていうかもうそれ何年も使い続けてるし遮光も落ちてるから捨てるよ」
「こだわり強いヤツとかいんじゃん。気にしないならいいけど。ラグもお前のだよな?これはどうする?」
「あー……。こだわりってほどでもないけど、それはお気に入りだから一応持っていく。洗えるやつだし」
その後も必要に応じて私に質問しながら、紫苑はテキパキとできる限りの整理を進めていく。
私が最低限の荷造りを終えて、冷蔵庫や棚の中身まで片付けた頃、時刻は15時55分を指していた。
そのタイミングで紫苑のスマホに着信が入り、業者の到着を知らせる。
ピンポーン
「こんにちはー!ヨコヤマ引越しサービスでーす!」
玄関のドア越しに、そんな元気のある声が聞こえてきて、私は少し緊張しながらもドアを開けた。