エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
「ちなみになんすけど……紫苑さんの彼女さんですか?」
「え!?」
「あっ、す、すみません!本来はお客さんにこんな質問するのとか絶対NGなんですけど!自分、紫苑さんとは結構長い付き合いで、自分の兄が紫苑さんの同級生で幼馴染なんで、ガキの頃から世話になってて」
紫苑の姿が見えなくなると、小声でそんな話をする想太郎さんに、「あーだから……」随分と打ち解けた雰囲気の2人の姿に納得する。
「私は紫苑の彼女……」
ではないですよ、と答えかけて、一度言葉を止めた。
そういえばあの契約――私が彼女のフリをするってやつは、いつからスタートするんだろうか。
もしかしてもう始まってる……?
「彼女……?」
「なの、かも?」
「ええ!?ってまぁそりゃそうか……。紫苑さん、どんなに綺麗な彼女つくっても絶対あの家にだけは上げようとしなかったのに今回は違ったから。こう見えてもオレ、結構びっくりしてるんですよ。
……あ!すみません!彼女さんに前の彼女の話とかマジでデリカシー無いなオレ!忘れてください!」
当然ながら、私を本当の恋人だと信じ切っている想太郎さんが、慌てたように両手で顔を覆って謝罪する。
「いいんです!気にしてないです!顔上げてください!」
「す、すみません。あとオレまだ26になったばっかのペーペーなんで!遠慮なく気さくに接してくださいね!」
「あ、そうなんだ。わかった。ありがとうね、想太郎くん」
私は申し訳なさそうに眉を下げる彼に苦笑を返して、「中どうぞ?」部屋に案内する。
想太郎くんは私に小さく会釈してから自身で持ち込んだスリッパに履き替えると、すぐにプロの顔になって室内の間取りや荷物の状況を確認した。
「そんなに物も多くないし、これなら1時間そこらで終わりそうっすね!」
「そんなに早く?さすがだね……」
「いえいえ!それじゃ、段ボールと緩衝材は持って来てるんで自分は荷造り始めさせてもらいますね!
ハンガーボックスは一応2台ありますけど足りますかね?女性なんでアウターも多いと思いますし、足りなければもう1台車にあるので言ってください!」
想太郎くんは廊下に持って来ていたらしいハンガーボックスを室内に運んでから、早速荷造りに着手する。
紫苑同様に、無駄のないテキパキとした動きで次々に作業を片付けていく彼を見て呆気にとられつつも、私は用意してもらったハンガーボックスにクローゼットのアウターを移していった。