エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
~♪♪♪
会社を出てすぐに、カバンから取り出したスマホがタイミング良く誰かからの着信を知らせた。
「えっ……お父さん!?」
その発信元は私の想像の斜め上をいくもので、実際に職を失って少なからず茫然自失としていた私の頭を覚醒させるにはもってこいな、そんな衝撃だった。
父さんから電話なんて……一体いつぶりだろうか。
もはやその声すら忘れかけていたが、私はおそるおそる画面の応答ボタンをタップし、スマホを耳に当てる。
「……もしもし?未來だけど……」
もしかして、私が今日付で退職ということを思い出して、柄にもなく激励の言葉でも贈ってやろうとか、これからの生活にも希望が持てるような熱い言葉をかけてやろうとか、そんな“父親らしい”行動の衝動でも沸き起こったんだろうか。
なんて、一瞬たりとも馬鹿げた想像を広げてしまった自分が、ひどく情けなくなるのはすぐ後のこと。
『未來か?久しぶりだな。実は父さん、お前に紹介したい人がいるから、今日の夜新宿まで来れないか?』
「……。は?紹介したい人?」
長らく腑抜けていた父とこうして久々に言葉を交わしたというのに、その最初の一声がまさかそんな一言だとは思わず私は狼狽える。
紹介したい人って、どういうこと?
そのままの意味なら――
「お父さん、彼女でもできたの?」
半信半疑――どころか、疑い8割の声で問いかけた私に、躊躇うことなく答えが返って来る。
『実はそうなんだ。実家で一緒に暮らし始めてもうすぐ1年になる。お前には特に話してなかったが、お相手が妊娠してな。結婚することになったんだ』
「……」
――
――
―――――はい?