今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
「いらっしゃいませー」
バイト君が元気よく声を掛けているのが聞こえ、すぐさま店頭を覗く。スーツ姿で眼鏡を掛けた長い髪の女性が、キョロキョロと店内を見回していた。木下以外の男性二人はどちらも手が空いているようだったが、瑞希は慌てて店頭へ顔を出した。
「こんにちは、川口様」
「あ、田上さん、いらっしゃって良かったです」
最近ちょこちょこと来店があり顔馴染みになったKAJIコーポレーションの経理部の人だ。伸也からの指示もあって、瑞希がいる時は必ず声を掛けてくれる。
恵美達の話では、瑞希が居ない時は吉崎店長が張り切って対応しているらしく、今日も勢いよく椅子から立ち上がっていたようだが、瑞希が出て来たことで小さく舌打ちする音が聞こえた。気付いた木下とバイト君は笑いを堪えた顔をしている。
「今日は3台の乗り換えをお願いしたいので、それぞれの先月の料金明細を持参したので見ていただけますか?」
「かしこまりました。では順に登録させていただきますね」
伸也経由で予めに契約書の予備を渡しておいたので、先にそこに社判を押して必要事項の記入も済ませて来店してくれる。何度も繰り返している作業なので、持ち込まれる契約書に漏れもほとんどなく、こちらは確認して端末在庫の製造番号等を追記するだけだ。手間が掛からないのに利益が大きいとなれば、店長が張り切って横取りしたくなるのも無理はない。
乗り換え前のキャリアの明細書を確認しながら、その利用量に見合ったプランを設定していく。参考にと他キャリアと自キャリアの料金プラン表を見せながら説明し、大まかな請求予想額を提示する。
登録が上がるのを待つ間はいつも他愛のない雑談を交わすことが多い。歳が近い女同士ということもあり、最初に比べると随分といろんな話をするようになった気がする。
「そう言えば、安達社長がお見合いされたって噂で社内は持ち切りなんですよ。田上さん、社長のお知り合いなんですよね? 何かご存じですか?」
「さ、さぁ……お見合い、ですか?」
首を傾げて、瑞希は曖昧に笑い返す。つい先日、そのお見合いの話について耳にしたところだが、どうやら社内では既成事実ってことになってるようだ。
「安達社長になってから、秘書課への転属希望者が増えてるらしいんですが、うちの秘書課は常務のお嬢さんみたいにコネでも無いと難しいらしくって」
「大きな会社も、大変なんですね……」
常務のお嬢さんに、お見合いの話。どちらもとても既視感があるなと思いながら、瑞希はバイト君から登録完了のFAX用紙を受け取る。3台全ての開通作業を終えると、いつも通りに川口を店の入り口までお見送りした。ほんの30分ほどの接客だったが、今日はやけに疲れた気がする。
バイト君が元気よく声を掛けているのが聞こえ、すぐさま店頭を覗く。スーツ姿で眼鏡を掛けた長い髪の女性が、キョロキョロと店内を見回していた。木下以外の男性二人はどちらも手が空いているようだったが、瑞希は慌てて店頭へ顔を出した。
「こんにちは、川口様」
「あ、田上さん、いらっしゃって良かったです」
最近ちょこちょこと来店があり顔馴染みになったKAJIコーポレーションの経理部の人だ。伸也からの指示もあって、瑞希がいる時は必ず声を掛けてくれる。
恵美達の話では、瑞希が居ない時は吉崎店長が張り切って対応しているらしく、今日も勢いよく椅子から立ち上がっていたようだが、瑞希が出て来たことで小さく舌打ちする音が聞こえた。気付いた木下とバイト君は笑いを堪えた顔をしている。
「今日は3台の乗り換えをお願いしたいので、それぞれの先月の料金明細を持参したので見ていただけますか?」
「かしこまりました。では順に登録させていただきますね」
伸也経由で予めに契約書の予備を渡しておいたので、先にそこに社判を押して必要事項の記入も済ませて来店してくれる。何度も繰り返している作業なので、持ち込まれる契約書に漏れもほとんどなく、こちらは確認して端末在庫の製造番号等を追記するだけだ。手間が掛からないのに利益が大きいとなれば、店長が張り切って横取りしたくなるのも無理はない。
乗り換え前のキャリアの明細書を確認しながら、その利用量に見合ったプランを設定していく。参考にと他キャリアと自キャリアの料金プラン表を見せながら説明し、大まかな請求予想額を提示する。
登録が上がるのを待つ間はいつも他愛のない雑談を交わすことが多い。歳が近い女同士ということもあり、最初に比べると随分といろんな話をするようになった気がする。
「そう言えば、安達社長がお見合いされたって噂で社内は持ち切りなんですよ。田上さん、社長のお知り合いなんですよね? 何かご存じですか?」
「さ、さぁ……お見合い、ですか?」
首を傾げて、瑞希は曖昧に笑い返す。つい先日、そのお見合いの話について耳にしたところだが、どうやら社内では既成事実ってことになってるようだ。
「安達社長になってから、秘書課への転属希望者が増えてるらしいんですが、うちの秘書課は常務のお嬢さんみたいにコネでも無いと難しいらしくって」
「大きな会社も、大変なんですね……」
常務のお嬢さんに、お見合いの話。どちらもとても既視感があるなと思いながら、瑞希はバイト君から登録完了のFAX用紙を受け取る。3台全ての開通作業を終えると、いつも通りに川口を店の入り口までお見送りした。ほんの30分ほどの接客だったが、今日はやけに疲れた気がする。