今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
朝一で通常の保育園に欠席の連絡をし、病児保育を受け付けている小児科に診察と通園の予約を入れる。風邪などが流行る季節にはすぐに埋まってしまい予約が取れないこともあるが、運が良かったのか職場から近いところで空きがあった。これまでも何度か利用したことがあるから、少しホッとする。
「ごめんね、出来るだけ早くお迎えに来るようにするからね」
泣いてグズる元気もないのか、発熱して頬を真っ赤にした拓也は看護士さんに抱っこされたまま、寂しそうな顔をしているだけだった。以前に預けた時は保育室の壁に描かれたクマのイラストに大興奮してはしゃいでいたが、さすがに今日はそんな元気はないようだ。熱のせいで少し腫れぼったくなった瞳が、瑞希のことをぼんやりと追っている。
病院から直行でショップへ向かうと、いつもと変わらない業務が待っていた。家でどんなバタバタが起ころうが、職場ではみんな同じショップの店員だ。客からはそれぞれの家庭事情なんて関係ないし、誰からでも同じサービスを受けられるのが当たり前だと思われている。
『夜中に拓也が熱出して、今日は病児保育をお願いしてきたよ。最近バタバタしてたから、少し疲れが出たのかな』
昼休憩の時に伸也へと送ったメールには特に深い意味はなかった。ただの近況報告のような、その程度のつもりだった。
『心配だね。そういう時は、いつもどこに預けてるの?』
休憩が終わる間際に届いたメールに、具体的な病院名などを書いて送ると、瑞希はそれっきり伸也とのやり取りのことは気にも留めなかった。
他のスタッフに事情を話して、明日と明後日の公休を代わって貰うことができたので、もし拓也の熱が下がっていなくても明日はゆっくり家で傍にいてあげられることになった。そのことは家に戻ってから伸也にメールしておこうと思っていた。
――だから、ボロアパートの前で大きな買い物袋を下げた伸也が待っていたことに、瑞希は本当に驚いた。
「ど、どうしたの?!」
「心配だったから、拓也のことも瑞希のことも。何が要るのかよく分からなかったから、適当にいろいろ買ってきたんだけど……」
とりあえず入って、と玄関の鍵を開けて伸也を中に入れる。高そうなスーツ姿の伸也がボロアパートの前で立ち尽くしてる光景は、別の意味で違和感があって目立ち過ぎる。
抱っこしていた拓也を下ろし、紙袋に入った物を受け取って見ると、プリンやゼリーなどの拓也が食べれそうな物の他に、瑞希用にとデパ地下総菜やスイーツが大量に入っていた。思いつく限りを片っ端から買って回ったのがよく分かる。
「美味しそうだね、ありがとう。みんなで一緒に食べよっか」
市販の総菜なんて本当にご無沙汰で、瑞希にとってはデパ地下スイーツなんてどこの国の話? くらいに遠い世界だった。
昼間にぐっすり眠ったおかげか、拓也の熱は平熱に戻っていたし、併設の小児科で薬も出して貰ったから、もう心配はなさそうだ。伸也に子供の相手を任せて、瑞希は荷物を片付けつつ簡単にお味噌汁の用意をして、病み上がりの拓也にはうどんを茹でる。
キッチンで作業している後ろでは、伸也が拓也の耳元で何かを一生懸命話していた。耳をそばだててみると、「パパだよ、拓也。パーパ」と必死でパパ呼びを教えていた。
瑞希は思わず噴き出した。
「ごめんね、出来るだけ早くお迎えに来るようにするからね」
泣いてグズる元気もないのか、発熱して頬を真っ赤にした拓也は看護士さんに抱っこされたまま、寂しそうな顔をしているだけだった。以前に預けた時は保育室の壁に描かれたクマのイラストに大興奮してはしゃいでいたが、さすがに今日はそんな元気はないようだ。熱のせいで少し腫れぼったくなった瞳が、瑞希のことをぼんやりと追っている。
病院から直行でショップへ向かうと、いつもと変わらない業務が待っていた。家でどんなバタバタが起ころうが、職場ではみんな同じショップの店員だ。客からはそれぞれの家庭事情なんて関係ないし、誰からでも同じサービスを受けられるのが当たり前だと思われている。
『夜中に拓也が熱出して、今日は病児保育をお願いしてきたよ。最近バタバタしてたから、少し疲れが出たのかな』
昼休憩の時に伸也へと送ったメールには特に深い意味はなかった。ただの近況報告のような、その程度のつもりだった。
『心配だね。そういう時は、いつもどこに預けてるの?』
休憩が終わる間際に届いたメールに、具体的な病院名などを書いて送ると、瑞希はそれっきり伸也とのやり取りのことは気にも留めなかった。
他のスタッフに事情を話して、明日と明後日の公休を代わって貰うことができたので、もし拓也の熱が下がっていなくても明日はゆっくり家で傍にいてあげられることになった。そのことは家に戻ってから伸也にメールしておこうと思っていた。
――だから、ボロアパートの前で大きな買い物袋を下げた伸也が待っていたことに、瑞希は本当に驚いた。
「ど、どうしたの?!」
「心配だったから、拓也のことも瑞希のことも。何が要るのかよく分からなかったから、適当にいろいろ買ってきたんだけど……」
とりあえず入って、と玄関の鍵を開けて伸也を中に入れる。高そうなスーツ姿の伸也がボロアパートの前で立ち尽くしてる光景は、別の意味で違和感があって目立ち過ぎる。
抱っこしていた拓也を下ろし、紙袋に入った物を受け取って見ると、プリンやゼリーなどの拓也が食べれそうな物の他に、瑞希用にとデパ地下総菜やスイーツが大量に入っていた。思いつく限りを片っ端から買って回ったのがよく分かる。
「美味しそうだね、ありがとう。みんなで一緒に食べよっか」
市販の総菜なんて本当にご無沙汰で、瑞希にとってはデパ地下スイーツなんてどこの国の話? くらいに遠い世界だった。
昼間にぐっすり眠ったおかげか、拓也の熱は平熱に戻っていたし、併設の小児科で薬も出して貰ったから、もう心配はなさそうだ。伸也に子供の相手を任せて、瑞希は荷物を片付けつつ簡単にお味噌汁の用意をして、病み上がりの拓也にはうどんを茹でる。
キッチンで作業している後ろでは、伸也が拓也の耳元で何かを一生懸命話していた。耳をそばだててみると、「パパだよ、拓也。パーパ」と必死でパパ呼びを教えていた。
瑞希は思わず噴き出した。